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cookieレス時代のデジタルマーケティング対応とは  【第1回】デジタルマーケティングはどう変わっていくのか
マーケティング 2021.11.04

cookieレス時代のデジタルマーケティング対応とは 【第1回】デジタルマーケティングはどう変わっていくのか

 2019年にはテレビ広告を追い抜き、広告業界で最大の市場規模となったデジタル広告(電通『2019年日本の広告費』より)。デジタル技術の進歩に伴ってマーケティングの主戦場はリアルからデジタルへとシフトしており、デジタルマーケティングの重要性は今後も増していくことは間違いありません。
 しかし、その一方で気になるのが着々と進んでいくcookie規制です。この規制によってデジタルマーケティングはどのように変わっていくのか。西川コミュニケーションズのDX事業部でエンジニアリングとプランニングを統括する近藤都雄に話を聞きました。

2000年代以降、加速を続けてきたデジタルマーケティングの変化

―――今回はこれからのデジタルマーケティングについてお聞きしたいのですが、まず近藤さんはこれまでどのようにデジタルマーケティングに関わってこられたのでしょう。
近藤: 2000年代のはじめからここ20年ほどの間に、デジタル技術やデバイスは急速に発達しています。それによって企業とユーザーとのコミュニケーション方法も大きく変化し、我々のクライアントもそれに対応を迫られる中でさまざまなご相談をいただきました。

今でいうところのDXなのですが、いかにユーザーとのコミュニケーションを広く深く行っていくのか、業務の負担を軽くしていくのかといったクライアントの課題に対し、デジタル技術を活用して対応する業務に20年ほど従事してきたのが私の業務経歴です。


―――この20年のデジタルマーケティングの変化とはどういったものだったのでしょう?
近藤: デジタルの歩みというのはGoogleやYahoo!の進化そのものに近しいと思っています。インターネットでの検索が一般的になったことで、マスメディアが主流だったころは受動的に得ていた情報もユーザー自身が能動的に情報を収集するスタイルへと変化してきました。

さらにスマートフォンのような場所も時間も選ばないデバイスが主流になったことで、情報への接触は飛躍的に増えました。
そういった流れの中で、ユーザーに合わせてどのような広告やコンテンツを提供していくかが課題になったところが、この20年間の変化で一番大きかったのではないでしょうか。

cookieレス時代の到来とその背景

―――しかし、デジタルマーケティングやデジタル広告がますます重要になる一方で、cookie規制という気になる言葉も聞こえてきています。
近藤: cookieの利用規制は企業のデジタルマーケティング活動に大きな影響を及ぼしていますね。今後のデジタルマーケティングやデジタル広告に対して大きなインパクトとなるのは間違いありません。


―――そもそもcookieとは何でしょう? 改めて確認させてください。
近藤: cookieというのは、一言でいうとユーザーがサイトに訪れたときに一種の足跡を付けることができる機能です。その機能を活用することによって、誰が、いつ、何のページを見たのかという情報を取得することができます。

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これまで企業側はその情報を利用して、このサイトを見た人にはこの広告を表示させようだとか、初回の訪問者と二回目以降の訪問者とではコンテンツを出し分けようといった、ユーザーに合わせた施策をとってきました。
デジタル広告がテレビ広告を追い越したのはこのターゲティングによるところが大きいのですが、それを可能にしてきた技術がcookieであり、デジタルマーケティングにおいてはごく一般的に利用されてきたものです。


―――それほど有用性が高いものが、どのような流れで規制に至ったのでしょう?
近藤: cookieの情報を見ることによってユーザーのインターネット上での行動を把握することができるわけですが、このユーザーの行動を把握するということにきちんと本人の同意がとれているのかが、個人情報保護の観点から見たときに疑問視されたのが始まりです。

そもそも消費者データには以下のような4つのタイプがあります。

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まず、自社がユーザーからの許諾を得たうえで収集したものがファーストパーティーデータです。ユーザーから意図的に提供された情報を特にゼロパーティーデータとも呼びます。

そして、他社がユーザーからの許諾を得たうえで収集したものがセカンドパーティーデータ

さらに、第三者機関が収集したものがサードパーティーデータです。

現在、規制が進んでいるのは、cookieの中でもサードパーティーデータにあたるサードパーティーcookieです。第三者機関、この場合はWeb広告を運用している広告代理店などが収集した訪問者のデータは、自社でユーザーからの許諾のもとに収集したデータと違ってデジタルマーケティング活用への許諾が曖昧であり、個人のプライバシーの侵害につながるのではという見方が広がってきました。
Googleがいち早くこのサードパーティーcookieを活用したデジタルマーケティングに懸念を示し、将来的にサードパーティーcookieを廃止すると発表しました。


―――デジタルマーケティングに大きな影響を持つGoogleが廃止するということは、事実上cookieは使えなくなるということでしょうか。
近藤: Googleだけではなく、デバイスを提供しているApple社やGoogleと同様にブラウザを提供しているFirefoxなどもこの動きに追随しており、cookieを収集する行為をブロックしていくと発表しています。サードパーティーのcookieに関してはいずれ使えなくなると考えて間違いないと思います。


―――実際にcookieレス化はどれほど進んでいるのでしょうか。
近藤: 特にEUとアメリカでは、EUが定めたGDPR(一般データ保護規制)が2018年に施行され、それに沿った形でcookie情報も含めてユーザーの行動に関わる情報の取得についての規制が進んでいます。

日本でも日本版GDPRが2020年の3月に閣議決定され、今後日本国内でも同じような形でサードパーティーcookieの規制が進むのではないかと言われています。


―――いつごろまでに使えなくなるのでしょう?
近藤: Googleは当初2022年度内にサードパーティーcookleを廃止すると発表しましたが、利用している企業の対応が間に合っていないのが現状です。デジタルマーケティングの中核にcookieを使っている企業は非常に多く、完全な移行にはかなりの時間を要します。

理由はそれだけではないとは思いますが、結局Googleは、サードパーティーcookieの廃止を2023年半ばごろまで延期するという発表を2021年7月にしました。ただ、EUとアメリカではすでにWebのトラフィックの50%以上がcookieレスになっているといわれており、移行そのものは待ったなしで進んでいるのは確かです。企業にとってはcookieを使わないデジタルマーケティングへの移行が喫緊の課題ですね。

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cookieレス時代に対応した新たなデジタルマーケティングとは

―――では、cookieレスの時代が到来することで、どのようにデジタルマーケティングが変わっていくと考えられますか?
近藤: ビックデータがバズワードだった時代に、サードパーティーデータを活用したDMP※1が全盛となったことは多くのマーケターの共通認識だと思います。デジタルマーケティングにおけるユーザーのターゲティングやペルソナ、カスタマージャーニーの作成に大きな力となってきたのですが、サードパーティーデータが使えなくなることでDMPは従来の使い方が難しくなっていくと思われます。

となると、どのような人がサイトに来訪しているのか、また広告を見ているのか、購入しているのかというような「誰が」というところを本人の許諾を得てしっかりと知るのが大事になってきます。これまでは「こういう属性の人が」という話だったところを、もう少し精緻化した「この人が」というデータをとっていくということが、重要になってくるのではないでしょうか。


―――「この人が」というデータはどのように集めていけばいいのでしょう。
近藤: ファーストパーティーデータを集めていくことが重要になってきます。先の図にもありましたが、ファーストパーティーデータは自社で収集した許諾済みの消費者データです。ユーザーから直接提供されたものであり、「誰が」それを許諾してくれたのかという情報も得られます。今までのビッグデータと呼ばれるざっくりしたデータよりも、ビジネスとの関連性が高いデータになります。

ただやはり名前のとおり非常にボリュームのあるビッグデータに比べれば情報は少ないので、独自でしっかり集めていくことが重要になってきます。


―――データを集めるために許諾を得るとなると、データを集める側とユーザーとの信頼が必要になってきますね。
近藤: はい、そのとおりだと思います。自社が集めるデータの中でもとくに「デジタルマーケティングや販促のためだけに使っていい」というような同意を得て取得するデータのことを、ゼロパーティーデータといいます。このゼロパーティーデータとファーストパーティーデータとを合わせてデータに深みを持たせることが非常に重要になってくるのですが、より個人のプライバシーにかかわるデータになってくるため、収集にはユーザーとの関係性が大事になってきます。


―――どのようにして集めていくことになるのでしょう。
近藤: データの収集を始める前に、戦略の実現に必要なデータがまず何かという分析する必要があります。あれもこれもデータがほしいというのではなくて、より効果的なパーソナライゼーションやマーケティングキャンペーンを実現するために本当に必要なデータは何かというものをしっかりと検討して設定しなければなりません。
そしてそのデータを得るために、キャンペーンやアンケート、ヒアリングなどを行っていくという順序です。


―――収集や分析に有用なツールはありますか?
近藤: 最近ではCDP※2のような、自社で取得したファーストパーティーデータを集約して分析するツールが注目されています。
CDPでは自社のWebサイトでユーザーがどのような行動をしたかをしっかりと許諾をとってデータを集めていくことが基本だと思っています。さらにそれを可視化することが可能なツールも多く出ています。

また他社が持っているファーストパーティーデータとIDベースで連携し、より深いデータ連携も必要になってくると思います。

これらの実現にはより一層の顧客関係の向上が必要になってきますし、プライバシーを尊重した顧客体験というものをユーザーに提供できるかというのが重要になってきます。

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cookieレス時代を見据えた西川コミュニケーションズのサービス

―――cookieレス時代を見据えて、NICOが取り組んでいることは何でしょう。
近藤: 西川コミュニケーションズとしては以下の三つのサービスを提供しています。

まず一つめはクライアントとユーザーとの接点や関係値というものをデジタル化する、いわゆるDXのお手伝いです。
たとえば、CDP等にファーストパーティーデータをどのような形で入れていくか、蓄積されたデータを分析してMAやLPO※3といったツールとどう連携していくかといったお手伝いです。

二つめは、ファーストパーティーデータに必要なユーザーデータを集めるお手伝いです。
例えば高度なユーザー嗜好や行動を把握するMROC※4等のアンケートを弊社で設計をして実施しています。

そして三つめ。ビッグデータに比べれば少ないとはいえ、ファーストパーティーデータもしっかり集めていけば膨大な量になります。これをAIによる分析で、どのユーザーがどのステージにいるのかといったことをBIツールで可視化するサービスも提供しています。

この三つのサービスによって、cookieレス時代を乗り越えていくというふうに考えております。


―――cookieレス時代が到来するからといって、決してデジタル上でユーザーとのコミュニケーションを深めていくようなデジタルマーケティングができなくなるわけではないのですね。
近藤: はい。今、お話しした三つのサービスはデジタルマーケティングの分野ですが、販促の分野でもいろいろなお手伝いをさせていただいています。そちらに関しましてはまだ次回にお話しさせていただければと思っております。


―――また次回、その辺を詳しくお話しいただきたいと思います。

※1:DMP(Data Management Platform)
顧客情報に加え、Webサイト閲覧者など個人を特定できないオーディエンス情報等を統合して収集・管理・分析するプラットフォーム。

※2:CDP(Customer Data Platform)
企業が保有する顧客一人ひとりの属性データや行動データなどを集めて分析するためのプラットフォーム。

※3:LPO(Landing Page Optimization)
主にランディングページの最適化のこと。その他オウンドサイト、ECサイト、アプリ等、様々なサイトの動的な最適化のことを指す。

※4:MROC(Market Research Online Community)
テーマごとのコミュニティをオンライン上に作成しユーザーに参加してもらい観察を行う。知るべきコトをコミュニティ内の行動や会話の中から見つける調査のこと。

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近藤都雄

西川コミュニケーションズ株式会社
デジタルトランスフォーメーション・サービス
エンジニアリング/プランニング・ディレクター
SFAシステムを中心にシステムインテグレータとしてシステム開発を担当後、2000年代後半に大手広告代理店でWebコミュニケーションの企画設計業務を手掛けたことで、デジタルマーケティング領域全般において、エンジニアリングからプランニングまでの幅広い領域を経験、2010年代には様々なクライアント企業にデジタルマーケティング施策を提案して成果をあげる。
現在はデジタルトランスフォーメーション事業部にてアドテクノロジー、デジタルメディア、システムソリューションなどを統括。