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コロナ禍の中の国際ECHO賞
マーケティング 2021.08.20

コロナ禍の中の国際ECHO賞

コロナ禍とアワード

日本において、広告マーケティングの世界的な表彰と言えば、真っ先に名前が挙がるのが「カンヌライオンズ・国際クリエイティビティ・フェスティバル」ではないでしょうか。
数々の表彰の中でも、エントリー数・来場者数ともに最大規模のアワードであることは間違いありません。毎年6月の下旬の約一週間に、地中海に臨むフランスのビーチリゾート・カンヌには、広告マーケティング関連のプロフェッショナルが一堂に集まり、200を超えるセミナーやトークセッション、そしてエントリー作品の審査と表彰が行われます。
1954年に創設され、マスコミュニケーションの発展と共に規模を大きくしていったこの世界的表彰も、昨年(2020年)はコロナ禍に見舞われ、中止となりました。
昨年度に該当する作品は、今年(2021年) 6月21日(月)から25日(金)まで、オンラインで開催された、「カンヌライオンズ2020/2021」で「2020年度の作品」として「2021年度の作品」とは分けて、審査、表彰されました。
日本からは、江崎グリコ「POCKY THE GIFT」がデザイン部門でゴールドを受賞しています。

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創設年次ではカンヌライオンズより長い歴史をもつ、1929年創設のANA米国広告主協会主催・国際ECHO賞は、コロナ禍の中でどのような活動をしていたのでしょうか。
今回は、コロナ禍の中での審査や表彰について書いてみました。

コロナ禍直前の2020年度表彰式

国際ECHO賞は、主催がANA米国広告主協会に代わってから、ウォルト・ディズニー・ワールドで知られる国際的リゾート地、米国フロリダ州オーランドで、毎年2月末~3月初に表彰式が開催されることが決まり、
2020国際ECHO賞の表彰&カンファレンスは2020年3月2日~4日に行われました。
まさに「コロナ禍直前」といったタイミングで、この表彰式に出席しているときに、10日後の3月13日~22日に開催される予定であった、世界規模のインタラクティブ・テクノロジーのビジネスカンファレンスSXSW(テキサス州オースティン)の中止が決まりました。
しかし、何人かの主要な最終審査委員がコロナの影響を危惧して参加を見合わせた以外は、例年と変わらない式典となっていました。
アメリカの審査委員やヨーロッパからの審査委員は、アジアから唯一参加している私・テッド藤枝を真剣に心配してくれたり、逆に「コロナを持って来たんじゃないだろうな」とジョークを飛ばしたりと、新型コロナは「アジアのもの」といった雰囲気がありました。
各部門の受賞作品を決める最終審査は前年の11月に、最終審査委員がニューヨークに集まって審査しており、残す審査過程は、各部門の受賞作品から大賞にあたる「ダイアモンド」を選定するだけです。
そしてダイアモンドの受賞作品には、非営利部門ゴールドを受賞していたアルゼンチンHuésped財団の「HIV on the Agenda(HIVを議題に)」という、大変面白いイベント型・屋外広告型のマーケティング活動が決まりました。
また来年、ここに集まりましょう・・・アメリカを中心に受賞者・応募者・マーケティング関係のスペシャリスト約2,000人が集まった式典とカンファレンスは無事終了しましたが、その約一か月後、新型コロナの猛威は世界中に広がります。

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世界のマーケティング・ビジネスを襲うコロナ

毎年、6月には翌年度の応募要項や審査員構成が決まる国際ECHO賞ですが、昨年の4月~5月は、ニューヨークからの情報が入ってこなくなります。マーケティング・ビジネスの中心地といえるニューヨークがロックダウンとなり、ECHO賞どころかビジネス全般が停滞していたからです。
6月になり、例年より一か月半ほどスケジュールが遅れていながらも応募要項をまとめ、従来のスケジュールに沿った形で、2020年9月18日が応募期限と発表されました。
しかし、世界各国でのマーケティング活動は中止や延期となっていることから、応募作品がなかなか集まらないという事態が生じます。
ニューヨークのみならず、世界各国の経済活動拠点都市は機能不全に陥っていました。英国におけるロンドン、フランスにおけるパリ、ブラジルにおけるリオデジャネイロ、インドにおけるニューデリー、そして東京。マーケティング・ビジネスは停滞していました。
冒頭にお話ししたカンヌライオンズはじめ、多くのカンファレンスが中止に追い込まれました。
私は、何も日本のDXが世界各国に比べて著しく遅れているのではなく、この時点で、世界中のマーケティング活動がデジタルを前提にしたものになっていなかったのだと、感じたのでした。

コロナ禍での審査

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ECHO賞は、世界約30か国・地域から集まった約500名の審査員が、オンラインで予備審査を行い、その審査結果をもとに、約100名の審査委員がニューヨークの審査会場に集まり、徹底した議論を交えた最終審査を行います。
8月に入るとECHO賞の運営事務局は、思ったように集まらない応募状況を睨みながら、この最終審査の方法を模索し始めました。アメリカ在住の審査委員なら、集まっての従来通りの集合審査ができるのではないか、といった意見も、なかなか収まらないアメリカのコロナ感染状況から選択肢から外されていったと聞いています。
応募も期限も、一旦は11月18日に二か月延長となり、9月に入ってからさらに12月18日に延長されました。
審査員の確定も12月にずれ込み、今年(2021)に入ってから慌ただしく予備審査が行われ、最終審査は、
2月1日から12日に、部門ごとに担当する最終審査委員がオンラインで集まり、例年と同様の手順で行われました。
予備審査では、各一次審査員が自分の都合の良い時間に、自分の分の作品を審査していきますが、最終審査では、一つの部門で10名ほどの最終審査委員が、世界各国から集まります。トロントは猛吹雪の午後1時、ロサンゼルスは晴天の午前10時、ロンドンは夕暮れ時の午後5時、日本から参加の私は午前3時と、様々な時間帯から集まって2-3時間の議論をします。
当初、この時差がオンライン集合審査の一番の障害になる、と思われたのですが、実際に一番の障害になったのは、なかなか集中力を発揮できない、ということでした。
皆、自宅から参加しているので、プライベート空間に審査が持ち込まれたことになります。ペットの犬が吠え出したり、隣の部屋で子供たちが騒ぎ出したり、一同に集まって集中的に話し合うのとは、明らかに違った状況に、なかなか議論が盛り上がりませんでした。

初のオンライン表彰式

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2021年4月14-16日、2021国際ECHO賞は、初めてのオンライン開催の表彰式を挙行しました。
同時に開催されるセミナーやトークセッションもオンラインで行われ、世界中から10,000を超える同時視聴がありました。
世界各国のマーケティングのエキスパートが審査員として集い、審査を通じて親交を深め、審査以外でも様々に交流している審査員やスタッフが、手探りで実施した初めての審査・表彰プロセスは、この表彰式で完結しました。
私を含む、最終審査委員や評議員、スタッフは、ほとんどが自宅に居ながらにして、例年同様の、いやそれ以上の達成感を味わっていました。コロナ禍...世界中ではパンデミックと呼ばれてる状況の中、応募が集まり、審査を手掛け、表彰できました。この事実は未来への礎になるに違いありません。
日本のデジタルトランスフォーメーションは「遅れている」とよく聞きますが、どれだけDXが進もうとも、コロナ禍...パンデミックが起こらなければ、国際ECHO賞のスタイルも変わらなかったと思います。
デジタルを前提としていなければ、どんなにデジタル技術が進もうとも、デジタル化しないものなのです。どのように「デジタルを前提とするのか」が今後は問われていくのだと思います。

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国際エコー賞に関するお問い合わせ

藤枝テッド和己

西川コミュニケーションズ株式会社
デジタルトランスフォーメーションサービス・ジェネラルマネージャー
ANA国際ECHO賞最終審査委員・準評議員
2000年代後半より、米国のマーケティングサービス会社にてショッパーマーケティングの開発に従事し、 多国籍企業のショッパーマーケティングプロジェクトに参画。 その後、 米国のマーケティングサービス会社の日本法人のマネージングディレクターや日本代表を歴任し、 2018年より現職。国際エコー賞では最終審査委員を務める。