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マスキングテープを「ひらめきのもと」に デザイナーが挑むブランディング
bande 2023.03.24

マスキングテープを「ひらめきのもと」に デザイナーが挑むブランディング

「bande(バンデ)」は西川コミュニケーションズのオリジナルマスキングテープブランド。中でも一枚ずつめくって使えるマスキングロールステッカーは、独自の形状と魅力的な絵柄で多くのファンを獲得してきました。
しかし発売から7年がたった今、ブランディングをはじめさまざまな課題が発生しています。お客さまにとってbandeはどういう存在になりたいのか。そこへ近づくためにどう進んでいくのか。リスキリングを通してbandeの課題解決に取り組んできた、アートディレクターの高橋佳代子、デザイナーの河合恵、宇佐見璃久に話を聞きました。

独自のラベル技術から生まれた「bande」

―――まずbande(バンデ)とは何かについてお聞かせください。

高橋: bandeは、西川コミュニケーションズ(以下、NICO)オリジナルのマスキングテープブランドです。シリーズの中でもご好評をいただいているのが、一枚ずつめくって使える「マスキングロールステッカー」。一枚ずつ切り抜かれたさまざまなモチーフがロール状に積み重なっており、シールのようにめくってお使いいただけます。

bandeの商品詳細やECサイトはこちらから
bande|あそべるマスキングテープ

 
bandeでメッセージカードなどの装飾しながらのインタビュー

―――この「一枚ずつめくれる」という点がNICO独自の製造技術とのことですね。

高橋: そうなんです。もともとNICOでは、剥離紙(台紙)を使用しないライナーレスラベルを製造してきました。複数のラベルを積み重ねてロール状にしたもので、一枚ずつめくって使う形状が特徴です。この積層技術がNICO独自のものになります。

ペットボトルなどに貼りつけるキャンペーンのお知らせや、スーパーなどで割引商品につける「〇〇%OFF」といったシールとして使われてきたのですが、これを応用して生まれたのがbandeです。

NICOのライナーレスラベル


―――どういった経緯で、ライナーレスラベルがマスキングテープになったのでしょう?

高橋: ライナーレスラベルをBtoCに応用したらおもしろいんじゃないかという話があったのが始まりです。もともとNICOはBtoBのビジネスをしてきた会社であり、従来のライナーレスラベルもBtoBの製品です。しかし、toCに幅を広げて新たな社会とのつながりを構築していきたいという思いがあり、そこで注目されたのがライナーレスラベルだったのですね。

まず、当時すでに人気のあったデコレーション用のマスキングテープにしてはどうかという声が上がりました。さらに一枚ずつ違う絵柄にして組み合わせて遊ぶのはどうかというアイデアが生まれ、今の形状になりました。

―――「一枚ずつめくれる」という特徴を大いに生かした応用だったのですね。

高橋: そして2016年8月にbande第一弾が発売。翌年の2月には販売店の方がツイッターに投稿してくださったbandeの紹介記事がバズって、それをきっかけに多くの方にbandeを知っていただくことができました。



bandeのブランディングにリスキリングとしてチャレンジ

―――ここにいる3人は、そのbandeにおけるさまざまな課題に対して、リスキリングとして取り組んできたとのことですが。

高橋: NICOでは名古屋本社の制作グループ内にリスキリングチームを作り、業務時間の二割を使ってそれぞれ学習や実践を通したスキル習得を進めています。

制作グループのリスキリングの取り組みについてはこちら
人材育成!リスキリング、始めてます。|つつつ@西川コミュニケーションズSDGs|note

私たちは4つのリスキリングチームのうちのbandeチームとして21年秋ごろに始動しました。チームの総数は5人。ブランディングとSNS運用をリスキリングとして、また並行して商品企画とイベントの企画準備を実務として進めてきました。

―――なぜ商品企画とイベントの企画準備は実務だったのでしょう?

高橋: リスキリングは「これまでとはまったく違う領域を学びなおすこと」を指します。しかしイベントの企画準備と商品企画については今までやってきた仕事の延長線上にある部分が多く、デザイナーとしての自分たちのスキルが活かせたからです。
一方で、ブランディングやSNS運用については私たちはほとんど経験がありません。このふたつをリスキリングの軸としてきました。

bandeが抱えていたブランディングの課題

―――なぜ、リスキリングとしてブランディングを選んだのでしょう。bandeのブランディングに課題があったのでしょうか?

高橋: ほとんどコンセプトがない状態だったんです。もちろんブランドスタート時は方向性も見えており、ブランドの軸となるところもあったんですよ。しかしブランディングの途中で、組織変更などを経て人の入れ替わりが続くうちに、曖昧になってしまって。リスキリング開始時には、絵柄のかわいらしさもあって評判ではあったのですが、他社と差別化ができるような軸になるコンセプトがなく、年間商品企画のようなものもほとんどない状態になってしまっていました。

宇佐見: コンセプトがなければいくらでもアイデアが出てくるかといえばそんなわけはなく、逆に縛りがないことで範囲が広すぎてアイデアも出しづらい状況でした。傍から見ていてもそれが分かるようになってきてしまって......。

高橋: 確かに絵柄がかわいいとご好評いただき一定数売れるのですが、絵柄がかわいいステッカーは他社でもたくさん出ています。「一枚ずつめくれる」部分も、形状だけならすでに他社でも可能であり、特徴としては弱くなっているのが現状です。
他社との差別化を図るには、もっと違う方向でのbandeならではの特色が必要だと考えたんです。

―――よくあるシール屋ではない、bandeならではの特色が必要ということですね。

高橋: 他社さんとのコラボに際しても必要だと感じています。bandeはOEMでいろいろなキャラクターやモチーフの商品も販売していて、ありがたいことに多くの注文をいただいているのですが、「このコンテンツならもっとこういう商品にしたらファンの人が楽しめるんじゃないか?」と思うこともあって。
この先お声がけをいただいたときに、bandeとしてもっと楽しい商品にするためのお手伝いができるようになるといいなと思っています。

河合: そのためには「私たちはこういう想いでやっています!」と言えるものが必要だたんですよね。

高橋: bandeのコンセプトはこうで、発注元のコンセプトとこういうふうに合致するから、そこに焦点を当てた商品を出しませんか、という企画がこちらからも出せるようになりたいですね。ブランディングはそのための根っこになるものでもあります。

―――ブランディングに課題があったからこそ、リスキリングの軸にもなったのですね。

河合: リスキリングの点で言うと、チーム内の共通言語を作るために必要だったこともあります。リスキリングのテーマとしてbandeを希望した5人が集まってスタートしたわけですが、その5人がどこを向いて進んでいくのかという方向性がまず必要でした。まずはそれを決めないと私たちがどこにも行けないという問題があって。

高橋: 旅行に行くぞと集められて、好きなところに行っていいよと言われている状況でしたからね(笑)。会社からは「自由にやっていいよ」とは言われていたものの、あまりに方向性がバラバラのまま新商品を出していては、今までと何が違うのかという話になります。そういう面でもブランディングが必要でした。

ブランド構築のプロセス

―――では、具体的にブランディングのためにやってきたことを教えてください。

高橋: まず取りかかったのは、ブランディングのやり方を調べることです。プロセスを解説しているサイトや書籍などさまざまな事例を見て、じゃあこれに沿ってやってみようか、というところからスタートしました。

河合: 第一段階は市場と競合他社について知ることでしたね。お店に行ってはシールを見て、どういう作り方なのか、どういうところに売ってるのか、それから売り上げがどういう状況なのかを調べていく。もともと文具が好きなメンバーが集まってはいますが、意識して市場を見たのはそれがはじめてでした。

宇佐見: 競合他社や、実際にマスキングテープを活用している人たちのSNSも隅々まで見ました。そこからbandeの優良顧客を考察して、複数のペルソナを設定して、そのペルソナにbandeがどういった価値を提供できるのかを考察して......と進めていきました。
 
―――複数のメンバーがいる中で、どのように考察を重ねて結果をまとめていったのでしょう?

高橋: ひたすら話し合いです。毎週2時間はブランディングについてのミーティングを設けて、毎週、進んでは戻るを繰り返しながら話し続けました。

宇佐見: 前の週に話したことが、翌週には「どうしてこういう結論になったんだっけ?」となることがよくありましたね。ひとつのお題に対して、どうしてそう考えたのか、どうしてそうなるのか、を繰り返して、その中から何とか皆の共通の認識を探り出していくという。

河合: とにかくいろいろなことを話し合いました。私自身もシールでさまざまなものをデコレーションするのが好きなんですが、そういった趣味に対して「趣味やエンタメは生命維持に必要なものではないのに、なぜ人はそれを求めるのか?」なんて話をしたこともあります(笑)。

宇佐見: あと、よくやっていたのが、bandeを人に例えて方向性を考えること。「bandeちゃん」はどういう人になりたいのか、どう思われたいのかと考えることで、bandeの現状や理想の姿を理解しようとしてきました。

河合: 擬人化はわかりやすくてよかったですね。他社製品も擬人化して「〇〇(他社製品)くん」はスタイリッシュで都会的だよね、というふうに、皆でイメージを共有してきました。

高橋: 逆にこうはなりたくないという姿を挙げてみたりもしましたね。

そうやっていろいろな方向から意見を出し合って、一年半かけてたどり着いた現在地が、bandeは「ひらめきのもと」になりたいという新たなコンセプトです。

―――「ひらめき」とはどういったものになるのでしょう?

高橋: bandeをめくるたびに「こう使ったら楽しいのでは、おもしろいのでは」というアイデアがわいてくるような存在でありたい。そういう「ひらめき」のきっかけをbandeが提供したいということです。

さらにbande自体が、ひらめきによってBtoBのライナーレスラベルからBtoCのマスキングテープに生まれ変わったという経験があります。ひらめきから生まれたbandeだから、今度はbandeが「ひらめきのもと」になりたいということでストーリーがつながりました。

―――現在はそのコンセプトまで決まっているということですね。この先はさらにどうなるのでしょう?

高橋: 「ひらめきのもとになりたい」というコンセプトを、わかりやすいキャッチコピーにすることがまずひとつ。

さらに、bande誕生の背景や、NICOがそこに込めてきた想いなど言葉にして、ブランドストーリーとしてまとめる予定です。ブランドストーリーはbande誕生当初からずっと関わっている製造部署の方たちの思い入れもあり、ぜひ伝えてほしいという要望をいただいています。



ブランディングの難しさとおもしろさ

―――ブランディングを進めるうえで、苦労した点はありますか?

高橋: とにかく導き手がいなかったことです。私たちだけではなく、NICO自体にイチからブランドを立ち上げた知見がなかったんです。「それでいいよ」と判定してくれる人が誰もいなくて。

河合: SNS運用の話になっていきますが、なかなか狙いどおりにはいかないという難しさも感じました。bandeを使ったデコの作例を投稿するにしても、ブランディングの話し合いをもとに「こういう内容が刺さるのでは」と考えて投稿したのに、思ったほど「いいね」が伸びなかったりして。

高橋: SNSこそやってみないとわからないものですよね。これも私たちには初挑戦のことでしたし。

河合: いろいろな作例を投稿し続けて、なんとなくですが「いいね」がつきやすい傾向がわかるようになってきて。タグ付けも工夫をして、微々たるものですが、徐々に効果が出てきたかな?というところです。
「いいね」のように数字ではっきり結果が現れると、一喜一憂してしまうこともありますが、目に見える形で結果がわかるのはおもしろくもあります。

高橋: 数字は憂いにもなりますが、励みにもなりますね。売り上げの数字にしても、同じイベントでも私たちが関わる前と後とでは大きく変わっていて、効果が目に見える形で出ています。それを見ると、やっぱりうれしいです。

―――売り上げの数字は大きな励みになりますね。

宇佐見: イベントでは、買ってくださる方とお会いできるのもうれしいですよね。お客さまのアテンドも私たちの仕事なので、bandeをどんなふうに思っていただいているのか、お客さまから直接聞けるいい機会になっています。

高橋: 確かにそれも大きなやりがいですね。デザインの仕事をしていると、たまにディレクターから「あのデザイン、担当者がすごくいいって言ってくれてたよ」なんて話も聞くと嬉しくはあるのですが、かといってそれが直接そのクライアントの売り上げUPに役立ったとか、その先にいる消費者に喜ばれたかといったことはわかりません。自分が作ったものに対して、お客さまのリアクションがはっきりわかるというのははじめてのことです。

宇佐見: あと、イベントで初めてわかったのが、意外と「かわいいから買ってみたけど、どうやって使ったらいいのかな」とおっしゃる方が多いこと。何もお客さまが全員デコの達人というわけではないんですね。

だからこそ作例にもっと力を入れたい。わかりやすく簡単な作例を増やしたり、この絵柄はこんな使い方ができますよという提案をしたくて、自分で貼り方の研究をしたりしています。気づけば個人的にもすっかりシール大好きになっていました。

河合: 私もです。もともとシールや文具は好きだったので、買ってはいたんですが、あまり使ったことはなくて。SNSに載せたりするわけではないのですが、個人的にノートのデコをして楽しんでいます。使い道ができると楽しいし、さらに買うようになりました。

宇佐見: 文具を売っているお店に入ったら絶対にシールコーナーに行くようになりました。より好きになったからこそ、市場調査も楽しいです。調査なのか、ただ好きで買っているのか、境目がわからなくなってきましたけど(笑)。



ブランディングの取り組みを経て

―――制作グループのリスキリングとして始まったチームですが、3人は部署を異動していますよね。

高橋: 今年(23年)2月に、bandeリスキリングチーム5人のうち、3人がbande製造を担う部署に異動になりました。制作グループのリスキリングは業務時間の二割を当ててよいという決まりになっていますが、その範囲でやっているだけでは、できることがもう飽和状態だったんです。SNS運用も商品企画も精一杯の状態で、これ以上のことは難しくなってきていて。

河合: デザイナーとしてのこれまでどおりの業務もありましたから、実務が忙しい時期にはなかなかbandeまで手が回らないこともあり、申し訳なさもありました。

高橋: 実務とリスキリングのバランスについては、リスキリングチームのメンバー誰しもが持っている悩みだと思います。忙しいからといって、どちらかをおろそかにするわけにはいかないし。

宇佐見: 私たちの異動は、それだったらいっそbande専任になったほうが専念できるね、なんて雑談レベルで話していたことが実現した形ですね。

高橋: NICOはもともと、社員に新しいことにチャレンジしてほしい、声を上げた社員は応援する、というスタンスなんです。社員のチャレンジを会社が後押ししてくれるのは本当にありがたいと思います。実際その当事者になってみると、実感しますね。

インタビュー中に作っていたbandeを使った試作品

―――では、異動したことでbandeの取り組みも加速が期待できますね。今後はどういう予定なのでしょう?

高橋: ブランディングに関しては、「ひらめきのもとになりたい」というコンセプトをもとにキャッチコピーを作り、ブランドストーリーとともに発信して行く予定です。自分たちはこういう信念でやっています、というのをきちんと掲げた上で、商品を作ったり、さまざまな発信をしていきたいです。 

bande全体の動きとしては、さらに社会との新しいつながりを生み出せるような商品も作っていければと考えています。子供向けの商品も作ってみたいですね。

宇佐見: SDGsへの取り組みも進むと思います。これまでも病院や介護施設、学校にbandeを寄付などしてきたのですが、さらに連携して新しい取り組みができるといいですね。

河合: あとはマスキングテープ以外の商品ですね。まずはマスキングテープと一緒に使うような商品を考えています。

高橋: BtoBのビジネスを続けてきたNICOにとって、BtoCの商品であるbandeは社会に対して新たなつながりを作り出した画期的な存在です。bandeを育てていくことで、このつながりをさらに広げていきたいというのは、NICOが以前から願っていたことでもあります。新たなコンセプトのもとにbandeをもっと成長させ、さらにたくさんの方にbandeをお届けしていきたいです。

bandeに関するお問い合わせはこちら(法人向け)

お問い合わせ

高橋 佳代子

西川コミュニケーションズ株式会社
bande アートディレクター

入社後、流通広告のデザイナー、アートディレクターを経て2016~2017年にbandeの立ち上げに参加。2021年から再度bandeプロジェクトメンバーとなり、bandeのアートディレクションを担当。

河合 恵

西川コミュニケーションズ株式会社
bande デザイナー

入社後、店頭販促物のデザインや動画制作を担当。2021年からリスキリングを通じbandeプロジェクトに参加、現在はbandeの商品企画やイベント準備、SNSを担当

宇佐見 璃久

西川コミュニケーションズ株式会社
bande デザイナー

入社後、店頭販促物のデザインや企業の社内報制作を担当。2021年からリスキリングを通じbandeプロジェクトに参加、現在はbandeの商品企画やイベント準備、SNSを担当。