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企業それぞれの現場を再現。自ら考え行動できる、より教育効果の高い可変型のVR安全教育とは
VR安全教育 2024.12.19

企業それぞれの現場を再現。自ら考え行動できる、より教育効果の高い可変型のVR安全教育とは

労働災害を未然に防ぐための安全教育は、従業員の安全を確保するための重要な施策。各企業でさまざまな教育や研修が実施されています。中でも近年注目が集まっているのが、VRを利用した体験型のコンテンツ。危険なシチュエーションを疑似体験することで、安全への意識を高めることを目的としています。

しかし、現在はあらかじめ作成された一般的な事故の再現コンテンツから選ぶ企業が多数。導入が手軽である一方、実際の現場とは違うため、企業からは自社の設備や独自の手順を反映させたコンテンツを求める声も多く聞かれます。

そこで西川コミュニケーションズが開発を進めているのは、企業が各自でカスタマイズ可能な可変型安全教育XR「TRAST」。より実際の現場に近いコンテンツだから実現できる安全教育について、開発担当のエンジニア多治見湧と池谷研人に話を聞きました。

VRによる安全教育とは

―――まずはVRによる安全教育とはどういうものかを教えてください。
多治見: 実際に起こりうる労働災害や事故を再現した3DCG動画を、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して見ていただくことで、危険なシチュエーションを疑似体験していただくものです。

VRはさまざまな業種で人材教育に活用されていますが、ここでは特に従業員の生命や身体の安全に関わるような危険なシチュエーションを再現したコンテンツを指します。

池谷: ほとんどの場合で、労働災害は人為的なミスが原因で起こっています。没入感のあるVR動画で危険なシチュエーションを疑似体験し、作業に携わる人のちょっとした気の緩みに対して注意喚起をしていこうというものですね。

多治見: VRによる安全教育の目的は大きく以下の3つに分けられます。

  1. 危険体験:危険なシチュエーションをVRで疑似体験し、安全への意識を高める
  2. 危険予知:危険なポイントを察知できるようになり、事故を未然に防ぐ能力をつける
  3. 訓練:安全な作業手順を覚える



VR安全教育のメリット

―――安全教育はVR登場以前から各企業でさまざまに工夫をして行われていますよね。体験施設を作られたり、座学による研修も多く行われています。それらと比べてVRで行うメリットはどこにあるのでしょう。
多治見: 最大のメリットは、コストやリスクの面で再現が難しいシチュエーションでも再現できることです。例えば、ガス漏れ現場でガス爆発が起こる......なんて危険なシチュエーションでも、VRなら臨場感たっぷりに再現可能です。

池谷: 命の危険がある事故を再現するなんて、バーチャルでなければ無理な話ですからね。これはVRによる安全教育コンテンツができたことで可能になりました。


―――確かに、研修のために爆発を起こすわけにもいきませんね。
多治見:  実際にガスを出して匂いなどを嗅いでもらったり、ごく小さな爆発を起こして見てもらう研修施設はあるようですが、さすがに爆発を身に受けるようなことはVRで疑似体験していただくしかないと思います。

池谷: 以前は2Dの映像を使って研修を行ったりもしていたそうです。けれどどうしても映像を見ているだけでは受け身になりがちなんですよね。VRは臨場感が違いますし、体験者の自由なタイミングや角度で映像を見られることで、より意欲的に体験していただけるのではと思います。

VR安全教育のメリットや注目される背景など、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
危険な事故を事前に疑似体験し、労働災害を未然に防ぐ。NICO×さまあが取り組む、VR安全教育とは


導入の手軽なサブスクリプションを採用する企業が多数。しかし...

―――それだけメリットのあるVR安全教育ですが、課題を感じているお客様も多いようですね。
多治見: VRによる安全教育は、現在、導入の手軽さからサブスクリプションによるサービスを採用する企業が多数です。さまざまな業種向けによくある危険なシチュエーションのコンテンツがいくつか用意されていて、教育を行いたい企業がその中から希望に近いものを選ぶという形ですね。

すでにあるものから選ぶわけですから、低コストかつ短納期で始められ、導入はとてもスムーズです。ただ、既製のコンテンツの中には本当に必要なシチュエーションがなく、近いものを妥協して選んでいるという企業様も多いんですよ。

池谷: 爆発や転落といった事故の危険は共通していても、どんな設備でどうやって作業しているのかといった細かい部分は、企業によってずいぶん異なりますからね。

多治見: 例えばとあるガス会社では、ガス漏れが疑われる建物への対処は、まず郵便受けなどのドアの隙間から漏れる空気でガス漏れ検知を行うそうです。ドアを開けるのは爆発の危険があるのでNGなんです。
しかし、別のガス会社では、ほんの少しドアを開けてその隙間から検知するらしいんですね。同じガス会社でもそれだけ違うんです。


―――それは大きな違いですね。それだと別のガス会社ではそのコンテンツは使えません。
多治見: そうなんですよ。自社のニーズに完全に合致したものを求めるのなら、フルオーダーで個別に作ることになります。しかしそれではコストや時間がかかります。このニーズとのズレで、導入を悩まれる企業は多いんです。

池谷: フルオーダーとはいかなくても、設備やシナリオを各社でカスタマイズできる仕組みがあればいいですよね。そこでいま、私たちが2025年4月リリース予定で開発を進めているのが、可変型の安全教育XR「TRAST(トラスト)」です。



可変型 安全教育XR「TRAST」とは

―――TRASTはどういったサービスになるのでしょうか。
多治見: 詳細な仕様については検討中ですので詳しくはご紹介できないのですが、用意された選択肢を組み合わせることで、自社の設備や手順に近いコンテンツにカスタマイズしていただける予定です。

予定の機能
●さまざまな業種向けの環境プリセットからお好みのVR空間を構築可能
●VR空間内で使用するアセットはドラッグ&ドロップで簡単配置
●教育コンテンツの内容(シナリオ)はノーコードで簡単作成


―――どの程度、カスタマイズの自由度があるんですか? 自社の手順に完全に合わせることができるのでしょうか。
池谷: 開発中ではありますが、現時点では実際の作業と完全に同じ手順を再現することは考えていません。VRはあまり長く見ていると疲れてしまうものなので、省ける部分は省いて、動画は5分以内くらいに収めるのがベストかなと。

ただ省いてしまってはいけない手順もあるわけで、そこのバランスをどうとるか。カスタマイズの選択肢については、今後、導入いただいた企業からヒアリングしながらアップデートしていく予定です。

多治見: そうやって企業の監修を受けながら、カスタマイズの選択肢を増やし、よりシナリオの自由度を上げていくのがTRASTなんです。

まずはβ版として、静岡ガス株式会社様と平井工業株式会社様向けにコンテンツを作成しています。これらは機能的にはフルオーダーの受託開発と変わらないのですが、これらをベースにして選択できるアセットやシナリオを増やしていき、カスタマイズ機能を持たせていく予定です。

【TRAST β版】
※音声が鳴ります。ご注意ください。

静岡ガス株式会社様向け動画(静岡ガス株式会社様のコーポレートサイトはこちら

平井工業株式会社様向け動画(平井工業株式会社様のコーポレートサイトはこちら

目標達成に向け、自ら考え自由に行動するコンテンツが作成可能

―――より自社の設備や手順に近いコンテンツにすることで、体験の質が向上するわけですね。
多治見: さらに、TRASTの特徴的機能として、体験者が空間内を自由に行動可能なこと、そしてその行動に評価がつくことが挙げられます。

現在主流となっているコンテンツは、体験者はシナリオで決められた行動をそのとおりになぞり、最後には必ず事故に至るということがほとんどです。それに対しTRASTでは、体験者が選んだ行動で結果を変えられます。正しい手順を選べば事故を回避でき、どこかにミスがあれば事故に至るというコンテンツが作れます。

そしてその体験者が選択した行動に対して評価が出ます。動画の最後に体験者の行動を振り返り、どの行動にどんな危険があったのか、どうすべきだったかといったコメントが出てきます。

池谷: シナリオが固定されている従来のコンテンツでは、一度体験したら飽きてしまうという課題もありました。しかし体験者の行動で結果が変わるTRASTのコンテンツなら、繰り返しのトレーニングで正しい手順を確認していくという使い方をしていただけるんです。


―――従来のコンテンツは事故を疑似体験することで安全への意識を高めるという印象が強かったのですが、TRASTは手順のトレーニングにもなりそうですね。
多治見: そうなんです。さきほどVRによる安全教育の目的をお話ししましたよね。

  1. 危険体験:危険なシチュエーションをVRで疑似体験し、安全への意識を高める
  2. 危険予知:危険なポイントを察知できるようになり、事故を未然に防ぐ能力をつける
  3. 訓練:安全な作業手順を覚える

この3つのうち、汎用性の高い既製のコンテンツは1.危険体験と2.危険予知に重きが置かれていることが多いです。しかしTRASTで作成するコンテンツは、3.訓練もカバーできるようになるんです。

展示会の会場でのトラスト出展ブースの様子。NICOスタッフなど複数の男性が立っている中で、ひとり体験者の男性がヘッドマウントディスプレイを装着した状態で背中を向けて立っている 椅子に座って待つ体験者の男性と、その男性の頭にヘッドマウントディスプレイを装着しようとしている池谷の様子。
展示会でTRASTを体験していただいた際の様子

体験中の男性の後ろ姿。頭にヘッドマウントディスプレイを装着し、手にしたコントローラーを持ち上げてVR空間上の何かを操作しているが、現実には何もない空中を動いているだけに見えているいる 床にしゃがみこんでいる体験者の男性。両手にコントローラーを手にしてVR空間上の何かを操作している
仮想空間上でガス漏れ検査を体験する体験者

 

VRによる安全教育の今後の展望

―――まだ仕様は固まっていないとのことでしたが、他に予定されている機能などはありますか?
多治見: 外部デバイスとの連携で、視覚や聴覚以外の感覚も取り入れてみたいですね。今回は見送りましたが、上記の静岡ガス様の動画でも、ガスの匂いを出すデバイスの取り付けも考えていたんですよ。

それから、触覚。手の動きで動画の操作ができるハンドトラッキング機能を付け、動きだけではなく、VR上の何かに触れたときの触覚のフィードバッグまで得られるようにするなどです。VR用のコントローラーは不慣れな方も多いですから、これは操作性としても取り入れたいです。

池谷: リアリティを追求するなら、映画の4DXのようにしてみたいですよね。ただ外部デバイスが増えると装置のコストがどんどん上がってしまって、量産が難しくなります。リアリティと手軽さのどちらをとるかという話になってくるのですが。
※4DX:映画の臨場感を楽しめる劇場の上映システムのひとつ。作品中のシーンと連動して座席が動いたり、風や水しぶき、香りが出るなどの演出が楽しめる。

多治見: VRのセットアップも大変ですしね。PCを起動してHMDにデバイスを接続して......といった準備は導入企業でしていただくことになりますので、HMDのみで体験できるようにしたいというお声をいただくこともあります。そういったお声を上回るニーズがあれば、外部デバイスにも対応しますというところですね。

それから、危険以外の訓練分野にも挑戦してみたいですね。VRを使ったトレーニングはすでにさまざまなところで行われていて、海外の大手スーパーではVRによる接客トレーニングがすでに一定の効果を上げているようです。

池谷: 海外ではVRによる安全教育はかなり進んでいるんですよね。日本ではまだまだ注目度が低いです。
出典:総務省|令和6年版 情報通信白書|データ集

―――なぜ活用が進んでいないのでしょう。
多治見: 費用対効果がわかりづらいことがネックになっていると思います。従来の2Dの動画による研修との効果の違いも、わかりやすく出てくるわけではないですからね。

池谷: それと、まだまだVRはゲームなどのエンタメ寄りなイメージが強いこともありますよね。業務への活用がイメージされにくいのではないでしょうか。普及しているHMDのデバイス自体がゲームをメインに開発されているものですし。


―――それは3DCG自体のイメージでもありますよね。3DCGの産業利用というお話になると、そういったお話はよく出てきます。
池谷: そうなんです。ただ、ゲームなども含めてVR自体の普及がさらに進めば、産業など他分野へも徐々に広がっていくのではないでしょうか。VRの操作に慣れないベテラン世代に比べ、ゲームなどでVRに触れてきた若い世代ならVRへの親しみもあるでしょう。世代が変わっていけば、より柔軟に取り組むようになるのではと思っています。

多治見: 若い世代に対しては、VRによる安全教育が新入社員向けのアピールとして期待できるというお声もいただいています。VRの活用にはまだまだいろいろな可能性があるはず。TRASTだけではなく、VRや3DCGといった技術の活用を進めていきたいですね。

VRによる安全教育に関するお問い合わせはこちら

お問い合わせ

多治見湧

西川コミュニケーションズ株式会社
CGIクリエイティブグループ

Unityを使用して、ゲームをはじめ産業用VRや業務用ソフト等、多様なアプリケーションを開発。 一方でさまざまな言語やフレームワークを利用して、Windows向け業務アプリケーションやWebシステムの開発も行う。

池谷研人

西川コミュニケーションズ株式会社
CGIクリエイティブグループ

さまざまな言語を用いて、企業向けのWebアプリケーションやAppleWatch等のスマートウォッチと歩数同期させた健康志向のスマートフォン向けアプリ開発等を経験。 また、Unityではカジュアルアプリの作成やメタバース空間の作成を担当。

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