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産業DXの中心に「Unity」。Unityエンジニアを育成する、西川コミュニケーションズの取り組み
3DCG 2024.02.28

産業DXの中心に「Unity」。Unityエンジニアを育成する、西川コミュニケーションズの取り組み

米Unity Technologiesが提供するゲームエンジン「Unity」。一般的にはゲーム用の3DCGコンテンツ開発ツールとして知られていますが、実は産業の分野ではDX推進の中心的なツールとして活用が進んでいます。
しかし、課題となっているのがUnityを扱える人材の不足。そこで西川コミュニケーションズでは、産業界にUnityエンジニアを送り出すための社会人向け研修を始めました。

本記事ではその第1弾である株式会社トヨタシステムズ様の研修の様子をご紹介しつつ、取り組みの詳細について企画・運営を担当する石川浩司にインタビュー。当社がなぜUnityエンジニアの育成に乗り出したのか、Unityが産業で活用されている背景などをご紹介します。


社会人向けの実践的ワークショップがスタート

―――NICO主催のUnity研修がスタートしたとのことですが、まずはその概要について教えてください。
石川: Unityによる3Dコンテンツの開発を学んでいただく、社会人向けワークショップ研修です。Unityは一般的な認知としてはゲームエンジンですが、卓越した3Dコンテンツ開発性能は産業分野でも活用されており、この研修は産業での利用を目的としています。

受講者は企業様の従業員などが対象で、実施は企業単位。西川コミュニケーションズ(以下、NICO)の3DCG事業の新たな取り組みであり、第1弾が2024年1月からスタートしました。

大きなプロジェクターを見ながら受講生が説明を聞いている様子4K対応壁面投影プロジェクター設備がある研修会場(当社施設)


―――どんなプログラムになっているのでしょう?
石川: 第1弾はUnityの基本的な説明から始まり、レンダリング・インタラクション・プログラム・エフェクト・物理演算・メタバース、それを仮想空間でVRで見るといった応用の部分まで、全7分野/18講座、約90時間にわたる網羅的なプログラムでした。講師は当社のグループ会社である「株式会社さまあ」のスタッフが努め、プログラムもオリジナルで作成しています。

ただこれは第1弾のクライアントであるトヨタシステムズ様のニーズに合わせたプログラムです。Unityを業務に活用するとなれば、もっとクリティカルなスキル、例えばメタバース構築のためのスキルのみ得たいといった分野指定のご要望が多くなると考えています。その際はご要望に応じて個社対応を行う予定です。

パソコンを見ながら講義をする講師の様子、受講生の席を回りながら個別に指導する講師の様子講師と受講生をサポートする二人体制で進行


―――講師の説明を聞くだけではなく、受講者も自身でUnityを操作しながら受講する、実践的なワークショップだったようですね。
石川: そこはやはり、Unityは自分で動かしてこそおもしろいものですからね。自分で作ったデータをどんどんビルドアップして、機能を増やしていくといったプログラムになっているので、達成感を感じていただける内容になっていると思います。

講師が操作している画面がプロジェクターに映っている様子、それを見ながらパソコンを操作する受講者の手元

プロジェクターに解説を表示しながら講義する講師、講義を受ける受講者たち講師の説明を聞きながら一緒にUnityを操作するスタイルは、受講者からも好評でした

 

Unityの産業活用が進む背景

―――なぜ今、Unityが産業の分野で活用されているのでしょうか。
石川: 背景にあるのはDXです。産業界でもさまざまな業務プロセスをデジタル技術で改善していくことが急速に進んでおり、中でも期待されているのがデジタルによるシミュレーションです。その土台にあるのがCG技術であり、Unityはそこに欠かせないものとして活用されているんです。

  • 産業界でのDXの一例
    ・製造プロセスでの製品評価シミュレーション
    ・工場などデジタルツインでの生産シミュレーション
    ・デジタルディスプレイのUIシミュレーション
    ・メタバースによるオンライン展示会やバーチャルオフィス化
    ・工場や作業現場などでの危険な労働災害を体験して学ぶ安全教育など
     

―――CGを使ったシミュレーションを行うということですね。
石川: CGというと、例えば製品のカタログやTVCM、映画などにも使われていますよね。ああいったCGはまず3Dデータを整備し、その上に質感やライティング、場合によりアニメーションなどを設定してレンダリング※出力し、ポストプロダクション工程を経て最終的に画像や動画として出力しています。このように事前に決まった条件を設定し行うレンダリングをプリレンダリングといいます。
※レンダリング:データを演算し、画像や映像を表示させること

これに対して、いま産業で活用されているのが、リアルタイムレンダリングとよばれる技術です。これはアクションに対して結果をリアルタイムに戻せることが特徴です。

例えば製品を評価するには、天候・時間、また複合的な要素などさまざまに条件を変えてテストを行う必要がありますよね。これまでプリレンダリングした静止画や動画も使われてはきたのですが、特定条件でしか出力できないプリレンダリングでは対応しきれない部分がありました。そういったシミュレーションをするならリアルタイムレンダリングが必須であり、それを実現できる開発環境のひとつがUnityなんです。

―――それでUnityの活用が広まっているんですね。
石川: これは単に自動化して工数を減らしていこうということではなく、今ある仕事をどうデジタルに置き換えて業務を改善していくのかというDXの文脈での取り組みです。

これまで実際にモノを作って行っていた製品評価をデジタルでのプロセスに改善するにあたり、実物での評価でできていたことがデジタルで再現できることは言うまでもありません。それに加え、複雑な条件下でリアルタイムに評価が行えるというデジタルならではの価値が、Unityの産業活用が進んでいる背景だと思います

―――「ものづくり企業では」ということでお話しいただきましたが、他にはどういった分野で活用されているのでしょう?
石川: 製造業以外にも、それから医療分野、建設分野、インフラ分野といったところでの活用が多くなっています。NICOが提供している、安全教育コンテンツ開発もUnityの活用事例のひとつですね。工場の機械や設備を仮想空間上に再現し、そこで危険な労働災害を疑似体験するというもので、これも現実では再現が難しい危険な状況を疑似体験できるという部分にデジタルならではの価値があります。
 
VR安全教育コンテンツ開発|西川コミュニケーションズ
 



西川コミュニケーションズでも、Unityの開発体制を強化

―――同じくゲームエンジンのUnreal Engine(Epic Games)もリアルタイム3Dの開発ツールですが、なぜUnreal EngineではなくUnityが使われているのでしょうか?
石川: これはあくまで当社の考えなのですが、ビジュアル重視のクリエイティブなコンテンツ開発にはUnreal Engineのほうが扱いやすく、産業でのシミュレーション活用としてはUnityのほうが扱いやすい傾向があります。実際、NICOにお寄せいただくお客様からのご依頼においても、産業分野に関しては圧倒的にUnityでの開発ニーズが高いと感じています。

―――もともとNICOではUnreal Engineによる開発を行っていましたよね。それはクリエイティブ分野での活用が多かったからでしょうか。
石川: そうなんです。NICOのCG事業はお客様の販売促進に利用するCG素材の制作からスタートしているので、以前はUnreal Engineをメインに使っていました。しかしお客様の販売促進以外(設計・開発・デザインなど)のニーズに応じる形で、徐々にUnityの開発体制も強化してきたという経緯があります。

昨年にグループ会社として迎えた「株式会社さまあ」にもUnity エンジニアが在席しており、ここで体制強化できたのは大きかったですね。さらにUnityの教育支援プログラム「Unityアカデミックアライアンス」に加盟し、提供される教育コンテンツでスタッフの育成も進めています。 

Unityアカデミックアライアンス加盟のニュースはこちら
当社は「Unityアカデミックアライアンス」プログラムへ加盟いたしました

 
―――アカデミックアライアンスは教育機関向けのプログラムという話ですが、企業が加盟することも多いのでしょうか。
石川 企業で契約されているケースはまだまだ少ないとお聞きしています。当社は自社のUnity体制の強化という計画もありましたし、人材育成の手段としてはマッチしていたのではないかと思います。



産業ニーズに対応できるUnityエンジニアは、圧倒的に不足

―――それだけニーズのあるUnityなのに、エンジニアは不足しているのですね。
石川: もちろんゲーム業界にはある程度いるんですよ。やはり一般的な認知としてはゲームエンジンですから、UnityやUnreal Engineを学んでみたいと思う方はだいたい「自分もいつかあんなすごいゲームを作ってみたい」という動機でスタートされています。なのでゲーム業界のエンジニアはある程度いるんですが、産業活用においては本当に不足しているんですよ。

そもそもの人手不足という問題もあります。少子高齢化の現代では新入社員を雇うことはなかなか難しくなっていますよね。そうなってくると、NICOでも社員の学び直し教育が進んでいるように、新たなスキルが必要な場合はリスキリングで従業員に学んでもらおうということになる。そして「自分たちでシミュレーターを作って仕事のやり方を変えていこう」というDXの機運がどの企業でも高まっています。

とはいえ、ではそれを誰がやるのかという問題が出てきます。一時期は私たちのところにも「スタッフを派遣してもらえないか」とか「Unityの操作を教えてほしい」といったお問い合わせが、開発案件のご相談よりも多かったんですよ。


―――それで始まったのが、社会人向けのワークショップ研修ということですね。
石川: ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社に、当社のCGの知見を使って世の中のニーズにこういう形で応えたいという提案をさせていただき、社会人研修の企画がスタートしました。それが2023年の春です。

実は第1弾の研修をご発注いただいたトヨタシステムズ様は、この企画がスタートしたばかりのころにお声がけをいただいた企業様なんです。第1弾のプログラムはトヨタシステムズ様と協力して作り上げました。

Unityのスタッフジャンパーを着た5人のNICOスタッフがテーブルを囲んで話している様子講義後の振り返りと改善会議の様子


企業のDXを推進していく人材の育成を目指して

―――今後もワークショップ研修に力を入れていくと聞いています。
石川: この第1弾を皮切りに、産業分野のさまざまな企業様を受け入れる予定です。中部にはもともと「ものづくり企業」が多く存在し、Unityの大きなニーズがあります。Unityを扱える人材、ひいては企業のDXを推進していく人材を我々が育成し、企業へと送り出すことで、中部の経済がより発展していくという流れを作れるのではないか。そういった社会的な意義という面でも、やりがいがある事業に育てていきたいですね。


―――そこまで見据えた活動なんですね。
石川: 今、ものづくり企業では、カーボンニュートラルに伴うビジネス損失をはじめさまざまな課題に直面しています。市場は非常に厳しいものになっていくことが予測され、生き残るためのビジネス構造転換が求められています。

NICOでは、こういった企業が継続的に事業を維持・発展できるよう、特に中部のものづくり企業にフォーカスを当てて業務改善支援・研究に取り組んでいます。そのために立ち上げたのが「MONOZUKURI-X研究所」という研究機関であり、今回の研修もその活動の一環なんです。

MONOZUKURI-X 研究所
企業が持つ技術や製品のリブランディング、新しい改善の試みによるPoCの環境の支援、産業DX人材の育成といった、能動的開発や支援活動を行っています。

今後はこれらの活動を通してプログラムをブラッシュアップしながら、より実践的な研修を実施していきます。Unityエンジニアの育成に興味のある方はぜひお問い合わせください。

4人の研修スタッフが並んで立っている様子Unity社会人研修向けスタッフ

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石川浩司

西川コミュニケーションズ株式会社
MONOZUKURI-X研究所 プロデューサー

入社後DTP・デザイン・システム開発・マーケティング・プロモーションを経て2015年に3DCG事業を立ち上げ推進中。
現在はバーチャル製品レビュー ・ 会議システム「MetaRoBa」をはじめ3DCG制作やインタラクティブコンテンツ制作・XR・HMD販売など幅広いソリューションサービスを研究・開発・販売するプロデューサーを担当。