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ビジネス活用が進むXR技術とは? VR・AR・MRの違いと活用事例を紹介
3DCG 2022.04.26

ビジネス活用が進むXR技術とは? VR・AR・MRの違いと活用事例を紹介

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった画像処理技術を総称してXRと呼びます。従来はエンターテインメントの分野で使われることの多かったこれらの技術ですが、最近は教育や研究、製造といった分野での利用が加速してきました。
 今回は、XRのビジネス領域での活用について、西川コミュニケーションズでXR関連の事業を推進している3DCG事業部の桐野大輔に解説していただきました。

そもそもXRとは? VR、AR、MRの違いとそれぞれの特徴

―――まずは基本的な知識のおさらいをさせてください。XRとはどういった技術なのでしょう?。
桐野: XRの説明の前に、VR、AR、MRについて説明します。

●VR(Virtual Reality):仮想現実

ヘッドマウントディスプレイなどを装着し、視界全体に映像を映し出すことで、実際にその場にいるような没入感を得られる技術です。現実にない世界や体験しづらい状況も3DCGによって作り出すことができます。

ヘッドマウントディスプレイなどで視界を覆って360°の仮想世界を表示させるため、没入感が高いのが特徴。映像の中を自由に動き回ったり、ハンドトラッキングやコントローラーによる操作で映像を動かすことも可能です。

なお、Facebook社が「Meta」へと社名を変更したことで一躍話題となった「メタバース」の体験にはVRデバイスが必要と誤解されがちですが、これは正確ではありません。
メタバースとはあくまでもネットワークの中に構築された仮想空間とそこで提供されるサービスのことであり、それらにアクセスできるのであればPC、スマートフォン、ゲーム機などデバイスの種類は問いません。

●AR(Augmented Reality):拡張現実

スマートフォンのカメラで映している映像に3DCGを重ねて表示するなど、現実の風景に情報を付加する技術です。目の前にある現実の世界を仮想的に拡張します。

スマートフォン上で体験できるため比較的簡単にサービスを提供でき、日常に新たな体験を生み出すサービスが次々と登場しています。

●MR(Mixed Reality):複合現実

ARをさらに発展させた技術で、現実と仮想をより密接に複合させていくものです。ヘッドマウントディスプレイを通して見える現実の映像に、仮想世界の情報を空間的に投影して、バーチャルとリアルを同時に感じさせることができます。

また、その同じ空間内を複数の人間が同時に体験することもでき、離れた場所からでも同じものを見たり操作したりすることが可能になります。遠隔での商品開発など、ビジネスシーンでの活用が期待されています。

技術
名称
VR(Virtual Reality)
=仮想現実
AR(Augmented Reality)
=拡張現実
MR(Mixed Reality)
=複合現実
説明 ヘッドマウントディスプレイなどで視界を覆って360°の仮想世界を表示させる 現実の風景に情報を付加し、現実の世界を仮想的に拡張する 現実の空間に仮想の情報を投影し、現実と仮想をより密接に複合させる
主なデバイス ヘッドマウントディスプレイ ・スマートフォン/タブレット
・スマートグラス
・ヘッドマウントディスプレイ
活用
事例

・メタバースの体験
・エンターテインメント:ゲーム、映画
・スポーツ観戦:360°見渡せる観戦サービス
・医療:手術のシミュレーション
・不動動産:VR内見サービス
・製造業:設計データを仮想空間上に映し出すデザインレビュー、作業者のトレーニング

・製造業:正しい操作手順を視覚的に示す作業ガイド
・小売り:家具や家電などの配置シミュレーション、化粧品を使ったメイクの疑似体験
・エンタメ:写したものの名前がわかるアプリ

・製造業:現実世界の環境下で製品評価ができる
・医療:3Dモデルを利用したよりリアルな手術シミュレーション
・建設業:現場での作業手順を可視化、実際の現場に実寸の3Dモデルを投影

それぞれ個別に進化してきた技術なのですが、現在ではVRにARを組み合わせるなどの複合コンテンツも増えています。それがVRなのかARなのかといった境界線を引くことが難しいものも多く、VR、AR、MRといった画像・映像処理技術の総称としてXRという言葉が生まれました。

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なぜ今、XR? トレンドの背景にある企業のニーズとは

―――VR、AR、MRといった現実と仮想を融合させたり拡張したりするような画像・映像処理技術全般が、今、トレンドとなっているということですね。
桐野: VRやARは過去にもブームになったことがあります。VRデバイスが相次いで発売された2016年がVR元年と言われていたことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。当時はまだまだ普及への課題が多く、いったんはブームも落ち着いたのですが、ここへきて再びXRとして注目されるようになってきました。

そして、以前はエンターテインメント分野でのトレンドといった感がありましたが、今度はビジネス分野から製造、医療、教育など幅広い分野で注目されているのが特徴ですね。


―――なぜビジネスでもXRが注目されるようになったのでしょうか?
桐野: デバイスの進化や、リアルなコミュニケーションが制限されたコロナ禍の影響など、全体的な背景はさまざまにあるとは思いますが、ビジネスの分野でいえばもっとも大きな要因はDXの推進ではないでしょうか。


―――DXの推進に、XRがどのように寄与したのでしょう?
桐野: DXの推進において、重要になるのはデータの活用ですよね。例えばメーカーでは、自社製品のCADデータをすでに持っています。そのデータを活用して新たな価値を付加することができないか?と多くの企業が思っていたわけですが、少し前までのVRやAR技術では機械の操作手順のマニュアルくらいしか作れませんでした。DXといえるほどの魅力的な活用ができなかったのです。

そこへMRという新たな技術が登場したのが転換点だったと思います。現実環境下で3DCGが使えるようになり、CADのデータをもとに作った精巧な製品の3DCGを、実際に目の前に存在するかのように表示させるといったことができるようになったのです。
これによって、試作品を金型ではなくデジタルで作ってMRで確認する製品シミュレーションや、社内トレーニングなど、データの活用方法は飛躍的に広がりました。


―――MRの登場によって、活用の幅が広がったのですね。
桐野: さらにハンドトラッキング機能が実用化されたことも大きかったと思います。手の動きを認識して手で3DCGの操作ができるようになったことで、これまでのVR、ARよりも圧倒的に没入感が増しましたし、よりリアルなシミュレーションが可能になりました。

こういった技術の進化を企業側が捉えて、DXの推進にXRが活用できるのではと考え始めたことで、一気にブレイクスルーが起こったと感じています。


―――DXの必要性とXR技術の進歩、このふたつの掛け合わせでXRがトレンドになったということですね。
桐野: ビジネスにおけるXRのトレンドに関しては、DXの流れのなかで生まれてきたものだと考えています。

ただ、エンターテインメントや教育など幅広い分野での背景を考えると、デバイスの進化によるところも大きかったのではないでしょうか。解像度や視野角も人の目に近い高性能のヘッドマウントディスプレイが登場し、より没入感のあるリアルな仮想空間を実現できるようになりました。それがトレンドを後押ししたのだと思います。

また、特にエンターテインメント分野では5Gの普及も追い風になっていますね。ゲームやアトラクションなど、多くの人数が集まってひとつのコンテンツを楽しむには、やはり高速・大容量通信の5Gが適していますから。


―――新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響はどうでしょうか?
桐野: やはりそれもありますね。企業ではリモートワークが推奨され、対面での会議や出張も激減しました。VR会議や、遠隔地からの製品シミュレーションといったニーズは、コロナ以前の状況ではなかなか出てこなかったでしょう。意識の変化をもたらしたという意味では、コロナ禍は非常に大きな影響があったと思います。

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さまざまな業界のXR活用事例

case1:不動産会社

竣工予定のマンションの細部を、実際と同じスケールで体感できる「VRモデルルームXR体験サービス」/東急不動産様

マンション購入の際は竣工前で実際の物件が確認できない場合も多く、「完成後のイメージをなるべく実際に近い環境で体験したい」という顧客ニーズは以前から存在しました。この事例ではもともと定点360度再現の「VR モデルルーム」サービスを実施していましたが、XR技術を用いてさらに進化したモデルルーム体験サービスの提供を開始。
実際のその場にいるかのような体験が可能になり、竣工前の物件購入の検討をサポートしています。

  • マンションの内装や家具を3DCGでリアルに再現。オブジェクトの質感や、空間の奥行き、太陽光やライトの陰影までも仮想空間の中で確認できます。
  • その場にいる他者の姿も仮想空間の中に表示され、仮想空間を共有可能。より没入感のある体験ができます。
  • ヘッドマウントディスプレイを装着したまま移動すると視界もスムーズに変化し、実際にその場にいるような感覚で3DCGを細部まで確認できます。

東急不動産_VR.jpg 東急不動産_XR.jpg
左の画像はVR、右の画像はXR。周囲にいる人物もVR空間に表示されます。

case2:自動車メーカー

ヘッドマウントディスプレイを装着して実際のテストコースを走行し、3DCGによる製品レビューを実施/VOLVO様

自動車業界においては、XR技術は設計から製造や小売りなどさまざまなフェーズで活用できる無限の可能性があると期待されています。
この事例では、テストコースを走行する運転手にヘッドマウントディスプレイを装着してもらい、実際の車の上に設計中のディスプレイや内装などのリアルな3DCGを重ねて表示。試作品や設計、予防安全性能の評価を行いました。

  • 通常なら準備に数週間以上かかるようなテストも1日でこなせるようなり、製品レビューのコストを大幅に削減。
  • 構成部分同士の整合性やレザーの質感なども3DCGで細部まで確認可能。信頼性の高い評価結果が得られます。
  • ヘッドマウントディスプレイのアイトラッキング機能により装着者と同じ立場で自動車を観察でき、本物の道路、周囲の自然、道路標識など、可能な限り現実と同じ条件でユーザー体験調査を行うことができます。

ボルボ6_2.jpg ボルボ5_2.jpg(左)走行中の車の上に、リアルな3DCGを重ねて表示 (右)道路を渡る動物を検知して注意を促す。この動物も3DCGで表示。

case3:自動車メーカー

ひとつのスタジオに3DCG車両をMRで再現し、複数人数で車両のデザインレビューを実施/KIA

自動車のデザインレビューは、スクリーンに2Dのモデルを表示させたり、クレイモデルやプロトタイプを用いて行われることが主流でした。デザイナーは一カ所に集まる必要があり、移動が制限されるようになったコロナ禍以降はそれが開発の遅れを招く原因ともなっていました。
この事例では、ヘッドマウントディスプレイを装着することで、実物さながらの実寸大3Dモデルを眼前に表示させることが可能に。遠隔地からでも複数のデザイナーが同時に見ることができ、移動も含めると何日もかかっていたデザインレビューがわずか1時間に短縮可能となりました。

  • 実物モデルとバーチャルモデルを並べての直接比較や、既存のクレイモデルにバーチャル要素を追加して確認することも可能。
  • 世界のどんな場所からでもコミュニケーションをとりながら即座にフィードバッグが得られ、さらに深い考察が可能です。

KIA2_2.jpg KIA3_2.jpg(左)実物さながらの3Dモデルを3DCGで表示。体を動かせば視界も変わります。(右)ドアを開けば内装も3DCGで表示されます。

新たな体験を作り出す、XRの未来

―――XRの今後の展望について聞かせてください。
桐野: 今後、XR技術がさらに普及していくと、持ちあがってくるのがデータのフォーマットの問題です。3DCGの制作や運用には非常に多くの人が関わるため、データをやり取りする中で「このフォーマットでは使えない」だったり「互換性がない」といった問題が実際によくあります。

そういった問題に対処するものとして、GPUの開発を行っているNVIDIA社からOmniverse(オムニバース)というプラットフォームが登場しました。今後の3DCG制作のひとつのスタンダードフローが、ここから生まれてくるのではと感じています。


―――Omniverseとはどのようなものなのでしょうか?
桐野: NVIDIA Omniverse™ は、3D デザイン コラボレーションと、マルチ GPU 対応のスケーラブルで真に迫ったリアルタイム シミュレーションのための、拡張が簡単なプラットフォームです。Omniverse は、個人で創作し開発する方法と、チームで作業する方法を根本から変えます。あらゆる個人にとって、また、あらゆる組織のあらゆるプロジェクトにおいて、創作の可能性が広がり、効率性が上がります。

―――西川コミュニケーションズとしての今後の取り組みはどうでしょう?
桐野: 当社ではVarjo XR-3をはじめXRデバイスを複数取り扱っているのですが、MRの没入感をさらに増すために、さらにほかのデバイスと連携できないかと考えています。例えば手で触ったものの感触や匂い、あとは立体音源などのデバイスですね。さらなる没入感でリアルとの境界をなくしていくことにチャレンジしています。

また、2022年4月には「Monozukuri-X 研究所」という研究所の立ち上げも予定しています。試作品のデザインレビューにMRを活用するとか、熟練者と若手をマッチングさせて動画マニュアルやWEBのUI/UXまた3DCGなどで技術継承をするだとか、ものづくり企業が持つ課題をデジタル技術でサポートし、企業のDXをサポートしていこうという研究所になります。

―――XRの加速に合わせて、西川コミュニケーションズでもさまざまな取り組みが進んでいるのですね。
桐野: 仮想と現実の世界を融合させる技術は今後も進化し、ますますビジネスに欠かせないものになっていくに違いありません。当社でも、3DCGのさまざまな技術で企業のサポートができるよう、開発を続けています。

先にお話ししたOmniverseについては、当社はNVIDIAとパートナー契約を結び販売代理店となっていますので、Omniverseに興味のある方はぜひお問い合わせください。「Monozukuri-X 研究所」に関しても、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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桐野大輔

西川コミュニケーションズ
ソリューション事業部 ビジュアルプライムグループ
CGプロデューサー

メーカー製品を中心に3DCGを用いたデジタルコンテンツなどの制作を担当した後、アパレルメーカーの商品撮影・スタジオ管理の仕事に従事。
「3DCG事業部」設立を機にチームに合流し、現在はプロデューサー兼ディレクターとしてメーカー製品を中心に、3DCGを用いたデジタルコンテンツなどの制作を行なっている。