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NICOのAI領域を担う「soda」プランナーに聞く AIのビジネス活用へのカギを握るのは、「テクノロジー×顧客×データ」の3つの視点
AI 2021.04.26

NICOのAI領域を担う「soda」プランナーに聞く AIのビジネス活用へのカギを握るのは、「テクノロジー×顧客×データ」の3つの視点

日々進化しているAI。もはや身近にもさまざまな技術が取り入れられ、世界中の人たちの生活を支えています。しかし日本企業、特にマーケティングの分野ではまだまだその実力を生かし切れていません。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が普及しビジネスのデジタル化が急加速する今、AIをビジネスに活用するために必要なこと、注目すべき点は何か。今回は、NICOの調査・分析やAI活用部門を分社化して設立された「株式会社soda」のプランナー・金牧伸弥にインタビューしました。

コロナ禍でますます注目が集まるAI

―――まず、AIについてお聞きします。AIは難しいものという印象が先立つ人も多いと思いますが、簡単に言うとAIとは何でしょう?
金牧: 人によって考え方が異なるので、こういうものだ、と一言で言い表すのはとても難しいですね。人工知能学会の定義では「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したものである」とされていますが、これもこの学会での定義という位置付けです。
画像解析に端を発した第3次ブームからAIという言葉が一般的になってきたおかげで、AI=ディープラーニング(深層学習)、つまりデータの特徴を自動的に学習していくものと思われがちですが、実はそれはAIという分野のほんの一部です。
よくあるAIの活用事例としては以下のようなものでしょう。

  • 検品業務の自動化 工場内の製造ラインにおいて製品の画像を撮影し、不良品などを自動で検出する
  • 需要予測 気候や客数など変動データを学習して売り上げを予測し仕入れや在庫管理に必要な指標を算出する
  • 自動応答 言葉を解析して自動で応答する。チャットボットやAIアシスタントなど

中でも複数のデータを解析することで予測値を出すという技術は、機械学習の分野で十年以上前から実用化されています。その手法や、手法を回すためのハードウェアが整ってきたことで、ここ十数年で目覚ましい進化をとげたというのが現状です。

―――DXの推進で、ビジネスにおけるAIへの関心がますます高まっているそうですね。
金牧: AIというのは大量のデータを学習してそこからモデル(計算式)を構築するものなので、データ取集がとても重要です。コロナ禍によって日本でもDXが急加速したことで、デジタル化された業務のデータ収集が容易になり、AIへの活用が注目されています。
ただ、その一方で「AIって何でもできるんでしょ」というふうにブームに乗って目的や適用範囲もはっきりさせないままAI開発を進めてしまって、導入以前のPoC(概念実証)だけで終了してしまうというパターンが多いのも事実なんです。

―――なぜ、せっかくPoCまで進んだのに頓挫してしまうのでしょう。
金牧: 例えば、安易に9割の精度を目標として何かを予測するシステムを開発するとします。データを学習させてPoCを行うわけですが、精度9割を達成するというのはとてもハードルが高く、開発には多くの工数が必要です。基本的にAI開発にかかるコストは工数で計算することが多いので、その時点でけっこうなコストがかかってしまうんです。
その上、なかなか9割が達成できないからとPoCを繰り返していると、コストが膨らんでそのシステム導入で見込まれる利益分では開発費がペイできなくなってしまい、そこで頓挫してしまう。システムの導入で業務を自動化したはいいものの、利益が出ないというのでは意味がないですから。

AIをビジネスに取り入れるために必要な3つの視点

―――では、PoCだけで終了することなく実用化に進めるには、どうしたらいいのでしょう。
金牧: 例えば、最終的な目標精度は9割であっても、8割まで上げられればある程度の効果が出せることもありますよね。8割の段階でいったん導入しておいて、実際に運用しながら精度を上げていくことができれば、コストのハードルは下がります。
目的が曖昧なままスタートしてしまうと、精度のような目標が目的にすり替わりがちです。そうではなく、「AI導入で何がしたいのか」という目的をはっきり決めたうえで取り組むことが重要です。

ただ「8割の精度でも効果は出るから、いったん導入しましょう」というような判断をするには、AIの技術はもちろん改善しようとしている業務そのものへの理解が必要になります。ここがなかなか難しいんですね。
そもそも開発に取りかかる前には、そのデータで精度が出せるのかというデータ視点での判断が必要ですが、データに対する判断力というのはAI開発のプロジェクトをいくつも経験していく中で身につくものですし、ある程度は技術のことがわかってないといけません。一方でデータの内容を理解するには顧客視点も必要になってきます。
さらには最初の段階でその目的が本当にAIの技術で実現可能なのかを判断するテクノロジー視点の判断も欠かせません。

AI実用化のカギとなる3つの視点

  1. 「AIができること」を理解するテクノロジー視点
    AIで何が実現可能なのか。将来的な進化や新たな価値提供を予測する着眼点
  2. AI適用の仮説が立てられる顧客視点
    ターゲット、ニーズ、効果予測などを読み解くマーケティング的思考
  3. 必要なデータを判断できるデータ視点
    目標とする精度を達成するために必要なデータや取得手法の理解

    導入企業がテクノロジー視点やデータ視点を持つことは難しいですし、エンジニアはテクノロジーだけに注目して進めてしまいがちです。
    この3つの視点をバランスよく持って導入企業とエンジニアの仲介をする「AIの翻訳家」が必要だというのが世界的な潮流で、sodaが目指しているのもそこなんです。

―――sodaはなぜ3つの視点を持てているのでしょう?
金牧: sodaには、もともとデータ分析を軸にしたマーケティング戦略の立案や、リサーチによるインサイトの発見などのプロジェクトを支援してきたメンバーが揃っています。
IMG_8768_540x388.jpgマーケティングや業界の事情にも通じていて、かつデータサイエンス技術もしっかり実績があるので、ビジネスとテクノロジーどちらにも軸足がおけるんです。例えば僕なんかはプランナーなのですが、機械学習によるデータ分析と、その分析結果からマーケティング施策を提案することを業務としています。
プランナーがデータサイエンティストとスクラムを組んで、領域を横断して協働することで、「テクノロジー×顧客×データ」の3つの視点から着想したマーケティングありきの提案ができるんです

データ視点から生まれた、自然言語処理を利用した商品レコメンドシステム

―――では、sodaが提供するAIのサービスについて具体的にお聞かせください。
金牧: sodaが提供するサービスは、大きく分けて「自然言語処理」「最適化」「機械学習・深層学習」「マーケティングダッシュボード」の4つ。その中でも特に力を入れているのが自然言語処理です。

―――自然言語処理とはどういったものでしょう。
金牧: 私たちが日常的に使っている、日本語や英語のような言語のことを「自然言語」といいます。これは言葉の意味が前後の文脈によって変わったりする曖昧なものですが、これを数値化してプログラムで処理できるようにしたものが「自然言語処理」です。よく使われているのは機械翻訳やチャットボット、AIアシスタントなどですね。
この技術をマーケティングに適用する事例は多くなかったんですが、これまでは難しかった文脈の理解が「BERT」という自然言語処理の手法の登場で可能になったおかげで、今後の可能性がかなり広がりました。sodaではこの「BERT」を実装しモデルに活用しています。

BERTについての詳しい説明はこちら→

自然言語処理技術の活用シーン
・アンケートのテキストデータを分類・分析
・顧客の潜在的な嗜好を購買データ(商品名・商品コピー)から可視化
・潜在ニーズの可視化による商品開発分析
・SNSのテキストデータを分析し、キーワードやトレンド推移を可視
・画像データからコピー生成

詳しくはこちら

―――自然言語処理を活用した事例としてどのようなものがあるのでしょう。
金牧: 例えば、現在sodaでPoCを進めているのは、商品に紐づく潜在的な価値観を数値化して商品レコメンドに活用するというシステムです。
商品のパッケージなんかに書かれたコピーを何万点と集めてきて解析し、「ヘルシー」や「上質さ」といった、その商品の持っている価値観を数値化する。その結果を売り方の施策に活用していこうというものです。
これは小売店向けの技術なんですが、小売業ではPOSデータの分析は進んでいるものの、商品データのほうは活用されてこなかった。しかし商品データにAIの技術を活用して新たな価値をつけることで、マーケティング施策に活用できるのではという、データ視点と顧客視点の着想からスタートしたプロジェクトです。
単なる機能の開発ではなく、商品データに新たなプラスの価値を見出して、価値の連鎖を生んでいけるものになると期待してします。

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商品の持つ価値観が一目でわかるようビジュアライズして表示される

一気通貫で提供するsodaのAIソリューション

―――では、そのほかのサービスについてもお聞かせください。
金牧: 自然言語処理以外でも、3つの視点を意識しながら、顧客の状況やニーズに合わせたアジャイルなモデル開発でAI導入~活用まで一気通貫で支援します。

最適化エンジン

限られた予算を複数の施策にどう配分すれば最大の効果を得られるのか? など、限られた条件下でもっとも効果的な組み合わせなどを予測するためにとられる手法です。

【活用シーン】
・予算配分の意思決定や売上予測・需要予測のシミュレーション
・マーケティング効果の変遷の把握と可視化
・ブランド間のマーケティング投資配分の最適化
・消費者の異質性を捉えたマイクロマーケティングの高度化
・DMなどのメディアのターゲティング

詳しくはこちら→

機械学習/深層学習

大量のデータを学習し、自動で分類や予測などを行う技術です。sodaでは課題に対して最も性能のいいアルゴリズムを自動で選択してモデルを構築することで、本来の目的である課題の解決にリソースを確保します。

【活用シーン】
・ターゲットが多く住むエリアを効率的に抽出したい
・離反するかもしれない顧客を早期に予測し発見する
・ランクアップ、またはランクダウンする会員を予測して影響度を分析

詳しくはこちら→

マーケティングダッシュボード

通常のダッシュボードに加えて、高度なアルゴリズムを連携させることで変化を捉えた予測値や顧客のインサイト等を可視化しPDCAを回す、オリジナルの「AI×BI」ダッシュボードを構築します。

【活用シーン】
・売上や客数を予測しKPIとのギャップを把握
・分類した顧客像をダッシュボード化
・アンケート分析からCXへの影響を可視化
・SNSのテキストデータを分析し、キーワードやトレンド推移を可視化

詳しくはこちら→

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さまざまな数値が可視化され直感的な理解を助ける「AI×ダッシュボード」

今後、AIはますますビジネスへの活用が進む

―――ビジネスにおけるAIの活用について、今後はどうなると考えられますか?
金牧: DXの推進に伴ってAIの実用化もますます進むことは間違いありません。ただ、DXは単に部門ごとの業務を効率化するのではなく、デジタル化によって新たなビジネスの価値を生み出していくことが重要です。日本ではIT投資というとどうしても効率化の方向に流れがちですが、AIにできることは効率化だけではないし、むしろそれ以外の分野、先ほど紹介した商品レコメンドシステムのようなデータに新たな価値を生み出す技術も注目されているんです。AI活用の道も単なる効率化などではなく、新たな価値を生み出す方向に進んでいければと思いますね。
sodaとしては、データとAI技術から生み出すビジネス価値を重要視し、その価値が連鎖していくことで生み出される豊かな体験に寄与することをミッションとして、AIのご提案をしています。

―――AIの導入に興味があるという場合、問い合わせ窓口はどこになりますか?
金牧: sodaに直接ご依頼いただいてもいいですし、まずはNICOのほうにご相談いただいても結構です。AIに興味はあるものの具体的なプランがあるわけではない、というような段階でも、必要に応じてAIのご提案が可能ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

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お問い合わせ

金牧 伸弥

株式会社soda(データ関連事業子会社) プランナー
調査、POSデータや顧客データ分析を基にしたマーケティングコンサルティング、 プロモーションプランの立案に従事。また大学や企業との共同研究を積極的に行い、マーケティングサイエンス学会等で発表。 株式会社soda設立に伴い、2019年7月より立ち上げメンバーとして参加。 19年8月に データマイニング・ AIの国際 カンファレンスである 「 KDD2019 」にて、「リユースジュエリーの画像から売価を予測するモデル」の研究成果を発表。