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AIで主観に頼らない出店計画をサポート 名鉄ミライート様のエリアスコアリングPoC事例
エリアスコアリング 2024.01.25

AIで主観に頼らない出店計画をサポート 名鉄ミライート様のエリアスコアリングPoC事例

リアル店舗を持つ企業において、店舗周辺の地域特性やニーズを把握する商圏分析は欠かせないもの。特に多店舗展開をしている企業では、GIS※1などを使ってさまざまな分析が進められていることと思います。しかし、データの扱いや分析結果の活用については課題を感じている企業も多いのではないでしょうか。

そこで西川コミュニケーションズが提案しているのが、GISとAIの機械学習の組み合わせにより、そのエリアが持つポテンシャルをスコア化する「エリアスコアリング」です。

今回はこのエリアスコアリングによる出店計画のPoC※2を実施された、株式会社名鉄ミライートの濵口遼平様にお話を伺いました。西川コミュニケーションズのエリアスコアリング プロダクトマネージャー小久保優作の話も合わせてご紹介します。

※1 GIS:Geographic Information System(地理情報システム)
※2 PoC:Proof of Concept:概念実証。希望する精度の分析結果が得られるかの検証

株式会社名鉄ミライート様
「この街に、もっと、おいしいを。」をスローガンに、とんこつラーメン専門店の「ラの壱」などの店舗事業、高速道路のサービスエリアや道の駅の運営、卸・製造業など、食に関連する事業を幅広く展開されています。

【事業内容】
・店舗事業
・ハイウェイ事業
・卸・製造業

公式サイト
【公式】名鉄ミライート | この街に、もっと、おいしいを。

個人の主観に頼りがちだった、名鉄ミライート様の出店計画

―――まず、名鉄ミライート様がエリアスコアリングのPoCを実施された目的を教えてください。
名鉄ミライート 濵口様(以下、濵口様): エリアスコアリングの客観的な数値をひとつの判断材料とすることで、新規出店の迅速な意思決定を行えるようにしたいというのが目的です。

弊社では東海地方を中心にさまざまな飲食店の運営を手がけていますが、今回はとんこつラーメン店「ラの壱」の新規出店計画に関する分析をお願いしています。
「ラの壱」は2023年で創業20周年を迎え、これを機に再度出店攻勢をかけていきたいと考えていたところでした。


―――これまでは意思決定のスピードに課題を感じておられたのでしょうか?
濵口様: そうなんです。弊社の場合、新規物件への出店を決める際には、出店担当者が集めた物件などのデータを経営層にプレゼンして可否を議論します。経営層はその時に初めて物件を知ることになります。中にはもともとそのエリアに詳しい人もいれば、そうではない人もいて、必要なデータが一定ではありません。追加の調査が必要になったり、同じデータを違う切り口で何度も提示したりということがよくありました。

さらにはデータを集めてくる出店担当者のほうも、出店を推進したいという思いがあるため、恣意的にデータを集めてしまうことがあります。

結局、出店担当者の個人の主観や、経営層の個人的な感覚で出店の可否について話し合っていたんです。判断基準がバラバラなので、あれこれと話しているうちに堂々巡りになってしまい、議論に時間がかかってしまうことが多くありました。


―――そこでエリアスコアリングの客観的な数値に興味を持たれたのですね。
濵口様: エリアスコアリングなら、統計情報データなどを基に公平な目線でひとつのスコアがはじき出されるため、個人の情報量の差に左右されることもなく、偏った判断を防ぐことができる点がいいなと思いました。スコアを基に定性的な感覚を含めて活発な議論をすることができると考えています。

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AIで公平なスコアを算出する、エリアスコアリングの仕組み

―――エリアスコアリングで客観的な指標を得られる仕組みとは?
西川コミュニケーションズ 小久保(以下、小久保): まずは、エリアスコアリングについて簡単に説明します。

エリアスコアリングは、GISにAIの機械学習を組み合わせた分析手法です。国勢調査をはじめとした統計データや、クライアントが持つID-POSなどの顧客データ、自店・競合のデータなどを組み合わせ、そのエリアの持つポテンシャルをひとつのスコアにすることができます。

出店計画に欠かせない「このエリアには潜在的な顧客が多くいるのでは?」などの仮説から、「ここで〇〇すれば成功の可能性が高そうだ」といったマーケティングに関する意思決定を、スコアの大小で支援します。
 
【出店計画に関するスコア算出の仕組み】
既存店の会員数や売上といった自店の実績データと、そのエリアの統計データで機械学習を行い、モデル※を作成します。

※モデル:数値を入力として受け取り、何らかの評価をし、結果(=出力)を導き出す仕組みのこと。

新規出店候補地のエリアの統計データを読み取って、会員数や売り上げの予測を返す、エリアスコアリングのモデルの説明

このモデルに新規出店候補地のエリアの統計データを入力すると、そのエリアに自店舗を建てた場合、どれだけの会員数や売り上げが見込めるのかといったポテンシャルを、ひとつのスコアとして算出することができます。

未知のエリアをスコア化しているマップの表示例
作成したモデルを使い、まだ店舗のないエリアを分析 

 
名鉄ミライート様では出店計画に関する分析を行いましたが、エリアスコアリングでは鮮度と質のいいデータさえあれば、あらゆる分析が可能です。

エリアスコアリングの仕組みや利用するデータなど、詳細はこちらをご覧ください。
GIS×機械学習で出店計画をサポート 商圏分析サービス「エリアスコアリング」とは | 西川コミュニケーションズ株式会社

―――GISとの違いはどこにあるのでしょう?
小久保: GISだとまだ店舗がないエリアでは一般の統計データしか利用できませんが、エリアスコアリングは未知のエリアであっても自社データを組み合わせた高精度の分析が行えることが大きな違いです。

また、分析結果がひとつのスコアという形で出てくるため、よりわかりやすい指標を導き出すことが可能です。

例えば出店計画では、注視する項目(年齢、世帯人数、持ち家率など)や数値の基準を決めてそれを成功パターンとすることが理想ですが、出店候補地がすべての項目で基準をクリアできるとは限りません。その場合、どの項目を重視するかという優先順位を人が判断するわけですが、さきほど濱口さんもおっしゃったように、判断基準が人それぞれになってしまうんですね。

せっかくGISを導入していても活用しきれていないというのは、こういった判断にデータ分析の専門的なスキルが必要となり、出店計画の担当者にはなかなか難しいというパターンが多いと思います。

それに対してエリアスコアリングでは、さまざまなデータを複合的に使ってエリアのポテンシャルを評価し、ひとつのスコアとして算出します。どの項目を優先するのかを人が判断する必要はないため、より客観的な指標が得られるんです。

 

適切なデータ選定で、より精度の高い分析を

―――名鉄ミライート様のPoCはどのように進められたのでしょうか?
小久保: エリアスコアリングの実装までには、構想・PoC・実装の3つのフェーズがあります。本事例では2段階目のPoCフェーズまでを実施しました。ご希望に沿う精度のモデルが生成できるかどうかの検証するために、すでにある郊外型路面店の特徴を的確に捉えた特徴量を抽出し、スコアリングを算出できるプロトタイプを開発しました。

【PoC終了までの流れ】
2022年11月 ヒアリングスタート
   12月 PoC実施決定
2023年  1月 モデル構築に必要なデータの準備と検証(構想フェーズ)
  3月上旬 プロトタイプモデル1回目提出
  3月中旬 追加検証をしたプロトタイプモデルを提出(PoC終了)

―――プロトタイプモデルの作成まではどういった作業になるのですか?
小久保: 重要なのはやはり使用するデータの決定ですね。来店してほしいターゲットに応じて、どのデータのどの項目を使えば精度の高い分析が行えるのか、名鉄ミライート様と打ち合わせを重ねながら決めていきました。

この段階で「統計的因果探索」も行いました。これは夜間人口や昼間人口、学生といった数多くの項目のうち、どれが店舗の有無に大きく影響しているのかをAIで推論するというというものです。大きく影響があるという結果が出た項目を優先的にスコアに反映させることで、より精度の高い分析にしていきます。
 

―――既存のデータをただ機械学習させるだけではないのですね。
小久保: 精度の高い分析を行うには、質のよいデータが必須になります。時にはデータをそのまま使うのではなく、加工することもあるんですよ。

例えば、「ラの壱」の店舗は愛知県内に約10店舗。当初は愛知県全域のスコアを出す予定だったのですが、愛知県の町丁目が約14000あるのに対し、店舗数が約10店となると、どうしても分析の精度が低くなってしまいます。そこで今回は、競合店も自店とみなして分析しました。これで店舗数を約60店にまで増やしています。

さらには分析するエリアを店舗の周辺だけに絞るなどの変更も加えています。プロトタイプモデルの作成までには、名鉄ミライート様とコミュニケーションをとりながら、データの種類や分析方法などをさまざまに組み合わせて試しました。

濱口様: 店舗数が少なくて苦労をおかけしましたが、いろいろと工夫していただいてありがとうございました。小久保さんたちがいろいろな方向性のアイデアを持ち寄って具現化に向けて動いてくださったことで、意義のあるPoCができたのではないかと思います。

小久保: ただデータをいただいて分析するというスタイルではないのが弊社の強みです。そこを評価いただけるのは嬉しいですね。

こうして2023年3月の上旬に一回目となるプロトタイプモデルの分析結果を提出しました。そこからさらに使用するデータを見直して追加検証を行い、3月の中旬に最終の分析結果を納品しています。


担当者の感覚に近い、納得の分析結果

―――納品データはどのような形式なのでしょうか?
小久保: 分析結果のスコアはリストで出てきますが、そのリストを取り込んだTableau(タブロー)のファイルを一緒に納品しています。

Tableauは、データ分析における専門的な知識を持たない人でも簡単に扱うことができるBI※ツールです。エリアスコアリングでは、分析結果をマップに落とし込んでより視覚的に確認できるため、組み合わせて使うことをお勧めしています。

分析結果の納品後に、Tableauの操作方法のレクチャー会も実施しています。ビジネスのデータ活用などDX推進全般にお力になれればと思っています。
 
※BI:Business Intelligence(ビジネス インテリジェンス)。さまざまなデータをチャートやグラフなどのわかりやすいビジュアル化をして表示するソフトウェア。

店舗周辺エリアのスコアがマップ上に表示された、Tableauの実際の画面

―――PoCの分析結果について、どのような印象を持たれましたか?
濵口様: 既存店舗のデータが少ない中でも、比較的自分たちの感覚に近いスコアが出てきたと感じました。より既存店舗の実績が豊富にあると、さらに信憑性の高いデータになったと思います。

ただ、どういったデータが、どれくらいスコアの数値に寄与しているかが社内で説明する上でわかりにくかったので、統計情報データの各数値がどれくらいスコアに影響を与えているのかがわかると社内での説明では使いやすいと感じました。

小久保: なるほど。そこは今後の検討事項ですね。

 
―――PoCで得られたスコアは何かに活用されましたか?
濵口様: 2023年11月にオープンした「ラの壱 伏見店」(名古屋市中区栄)の出店に際しては、エリアスコアリングの結果を参考にしています。ここは郊外型路面店ではないのですが、このエリアは分析結果の中でも上位5%に入る高いスコアが出ており、十分参考になると考えました。
 

店舗の前に立つ濱口様と小久保の写真ラの壱 伏見店にて

ラの壱伏見店の店内の様子店内の様子


「ラの壱」は現在、愛知と岐阜に10店舗あります。これを20店舗、30店舗と増やしていくのが今の目標です。それにはスピーディな意思決定が欠かせません。また、個人の経験に頼って出店の可否を判断してしまうと、結局その経験を超えるようなお店作りはできません。エリアスコアリングの客観的な数値を活用していくことで、経験だけに頼らない、スピーディな出店計画を進めていきたいですね。
 
 

PoC終了後も続く、西川コミュニケーションズの伴走体制

―――今後、エリアスコアリングを使ってやっていきたいことはありますか?
濵口様: ラーメン業態に限らず、さまざまな業態を出す上でのスコアリングができると、より成功率の高い新規出店ができるのではないかと思います。

さらには、収益予測にもAIを活用できないかと考えているんです。出店計画にはこの収益予測も欠かせない重要な仕事です。今は私がExcelでデータを集計してあれこれ見比べながら考えてるんですが、やはり人力ではなかなか大変で......。

小久保: それはぜひ検証させていただきたいですね。エリアスコアリングはデータさえあればいろいろな分析が可能です。どんなデータが使えるのか、一緒に探りながらお力になっていきたいです。

我々はもともとシステム開発の専門会社ではありません。業務のベースにはクライアントのマーケティング支援があり、エリアスコアリングもその考えから生まれてきたものです。クライアントのビジネスを理解しながらさまざまなサポートをする伴走体制が、西川コミュニケーションズの強みなんですよ。

名鉄ミライート様にも、エリアに関するお悩みになんでもお応えできるよう、伴走体制でサポートしていけたらと思っています。



エリアスコアリングについてのお問い合わせはこちら

お問い合わせ

濵口遼平様

株式会社名鉄ミライート
営業本部企画開発部

名古屋鉄道(株)入社後、主に不動産開発・管理の実務に従事。
2021年7月より名鉄グループ内の外食企業である名鉄ミライートへ出向し、飲食店舗の新規店舗出店・業態開発を主に担当。
新規店舗出店の一環で商圏分析やデータ分析の業務も担当し、名鉄ミライートの新規案件を推進している。

小久保優作

西川コミュニケーションズ株式会社
名古屋ソリューション本部 ソリューション推進部 営業

NICO入社後、小売・エネルギー業界の得意先を担当し、現在はインフラ業界の得意先を担当しながらエリアスコアリング開発のプロダクトマネージャーを兼務。
創業以来の事業領域である印刷分野をはじめ、AIサービス開発やWebマーケティングなどさまざまな領域の業務に従事している。