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GIS×機械学習で出店計画をサポート 商圏分析サービス「エリアスコアリング」とは
エリアスコアリング 2023.09.28

GIS×機械学習で出店計画をサポート 商圏分析サービス「エリアスコアリング」とは

リアル店舗を持つ企業において、地域の特性やニーズを把握するエリアマーケティングは欠かせないもの。中でも重要な商圏分析にはGIS※が使われることが多いものの、GISの活用には課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。

そこで西川コミュニケーションズが提案しているのが、GIS×機械学習の組み合わせで、その地域が持つポテンシャルをよりわかりやすい形にスコア化する「エリアスコアリング」。

今回はこのエリアスコアリングを提供している西川コミュニケーションズのエリアスコアリング プロダクトマネージャー小久保優作と、「株式会社soda」のデータアナリスト倉田陽右に話を聞きました。エリアマーケティングおよびGISの課題をふまえ、エリアスコアリングの仕組みや何ができるのかを詳しく解説します。

※GIS:Geographic Information System(地理情報システム)

エリアマーケティングとは


―――まず、エリアマーケティングとは何かについて教えてください。

倉田: 教科書どおりにいうと、地域の特性・ニーズに合わせたマーケティング活動を行うことです。地域によって風土(気候・地形・歴史・文化・風習)は異なりますよね。それぞれの地域でその土地に合った産業が発展し、インフラが整えられ、ライフスタイルが確立されています。よって消費などの行動も地域ごとに変わってきますし、買い手側の4C※1(ニーズ)、売り手側の4P※2(戦術)も変わります。

※1 4C:Customer Value(価値)・Customer Cost(費用)・Communication(意思疎通/信頼関係)・Convenience(利便性)
※2 4P:Product(商品・サービス)・Price(価格)・Promotion(販促)・Place(販売場所・提供方法)

―――どのような場面で必要になるものなのでしょう?

倉田: エリアマーケティングが必要となる範囲は幅広いですが、特にリアルな店舗を持つ企業で重要になります。出店計画から商品企画、販促計画まであらゆる場面で欠かせないものとなっています。

例えば、私がよく行く長崎ちゃんぽんのお店があります。お店が移転したため、いったんは足が遠のいたのですが、最近になって私が転居したことでそのお店がまた近くなり、よく行くようになりました。
実は、移転前は味が「あっさりしすぎ」と感じていたんです。それが本場の味なのでしょうけど、名古屋の濃い食文化で育った私には物足りなかったんですね。しかし移転後は味付けが変わったのか「あっさりしすぎ」から「あっさり」になりました。

地域によって食文化は異なり、好まれる味付けも変わってきます。そのニーズを把握して対応することもエリアマーケティングです。同じ商品でも東日本と西日本で味付けが異なっていたり、チェーン店でも品揃えが異なっていることは珍しくありません。ほかにも価格や店舗レイアウトなど、地域ごとに対応している部分は数多くあります。

小久保: それから、同じコンビニであっても、会社員や学生が使う都心店では文房具が多かったり、近隣住民が多い郊外店は調味料が多かったりしますよね。そのエリアにどういう人が来るのかによって必要とされるサービスが変わってきます。

―――店舗を持つ企業の活動に幅広く関わってくるのですね。

倉田: 都道府県、市区町村、町丁目のどの粒度で見ていくかは企業の考え方次第ですが、地域の特性やニーズを把握し、それに応じたマーケティング活動を実行に移せるか否かは重要です。リアル店舗を持つ企業、特に多店舗展開をしているような企業であれば、ほとんどの企業が取り組んでいるのではないでしょうか。



エリアマーケティングに欠かせない商圏分析と、その課題


―――エリアマーケティングの取り組みにはどのようなものがありますか?

倉田: 私が真っ先に浮かぶのは、地域の特性を把握したり、出店の可否をサポートする商圏分析ですね。商圏分析は大きく①商圏内にいる人や競合の把握②お客様の入店の動きを立地の面から想定するという2つの視点で進められます。

多店舗展開をしている企業のほとんどは商圏分析を実施していると思います。ただし実施はしていても活用しきれていない企業も多いという印象です。

―――なぜ活用できていないのでしょうか?

倉田: 出店計画の場合「注視する項目(各世代の人口や持ち家率の有無など)や数値の基準を決め、成功パターンを確立する」といったことをしたいのですが、確立するには複数店舗の運営実績が必要ですし、店舗形態(都市型、郊外型、インショップ型など)や出店エリア(東京と名古屋など)によって基準を変えなければなりません。また確立できたとしても、候補地がすべての項目で基準をクリアできないことも多く、その場合どの項目を優先するかの判断が難しかったりします。

小久保: GIS分析の結果を手にして、候補地周辺をじっくり観察し、近隣住民や通行人が自店に入り満足して出るイメージが湧くかどうかといったアナログで感覚的なことも重要ですよね(笑)。

倉田: はい!そのとおりです。現地調査による観察やそこからイメージすることはとても重要です。それは先ほど言いました②お客様の入店の動きを立地の面から想定するにあたりますね。

なお、①商圏内にいる人や競合の把握では、GISがよく利用されています。これはデジタルの地図上に国勢調査などの統計データと自社や競合の持つ独自データを組み合わせて情報化を可視化するもので、例えば既存店のエリア分析では売上や客数などのデータを利用してエリアの特徴の把握や分析を行います。GISは扱うデータ次第でさまざまな分析ができますが、中でも商圏分析は代表的な利用方法ではないでしょうか。

西川コミュニケーションズでは、このGISに機械学習を組み合わせ、よりわかりやすい指標を導き出す「エリアスコアリング」を提供しています。


エリアのポテンシャルを視覚化するエリアスコアリング


―――エリアスコアリングとはどういったツールですか?

倉田: ツールというより、新しい手法です。GISにAIの機械学習を組み合わせた分析手法になります。国勢調査をはじめとした統計データや、クライアントが持つID-POSなどの顧客データ、自店・競合のデータなどを組み合わせ、町丁目・郵便番号・メッシュ単位で、エリアの持つポテンシャルをスコア化できる仕組みを持っています。

出店計画に欠かせない「このエリアには潜在的な顧客が多くいるのでは?」などの仮説から、「ここで●●すれば成功の可能性が高そうだ」といったマーケティングに関する意思決定を、スコアの大小で支援します。

―――通常のGISとはどこが違うのでしょう?

倉田: 大きな違いは、まだ店舗がない未知のエリアでも算出できることです。

未知のエリアでもスコアリングできることで、これまで店舗がなかった出店候補エリアでも高精度の分析が行えるようになりました。以下、出店計画を例にしてエリアスコアリングの仕組みを詳しく解説します。

エリアスコアリングの仕組み


倉田:
 下の図はエリアスコアリングで既存の自店舗の位置を地図上にプロット(地図上でポイントを表示させること)し、各店舗の商圏や会員数、売り上げを表示したものです。ここまではGISでも可能です。

地図上に既存の自店舗の位置をプロットし、各店舗の商圏や会員数、売り上げを表示したエリアスコアリングの表示例店舗の位置と売り上げ等を重ねて表示することで、各店舗の実績を可視化することが可能

さらにエリアスコアリングでは、町丁目や郵便番号単位で集計した会員数や売上といった実績データとエリアの統計データで機械学習を行いモデル※を作成します。

このモデルに新規出店候補地のエリアの統計データを入力すると、そのエリアに自店舗を建てた場合、どれだけの会員数や売り上げが見込めるのかといったポテンシャルを、スコアとして算出することができるのです。

※モデル:数値を入力として受け取り、何らかの評価をし、結果(=出力)を導き出す仕組みのこと。

新規出店候補地のエリアの統計データを読み取って、会員数や売り上げの予測を返す、エリアスコアリングのモデルの説明

未知のエリアをスコア化しているマップの表示例作成したモデルを使い、まだ店舗のないエリアを分析


倉田: 先にどの項目を優先すべきか判断が難しいというお話をしましたが、エリアスコアリングは統計データのさまざまな項目(年齢、世帯人数、持ち家率等)や自店、競合店の有無などを機械学習を使って複合的に評価し、それをスコアという形で表現しています。分析したすべてのデータの評価がひとつのスコアとして出てくるため、優先順位を判断する必要がありません。

意思決定をサポートするツールとして


―――指標であって、正解を提示するようなツールではないのですね。

倉田: "スコアだけ比較すればいいですよ"と言いたいのですが、残念ながら万能ではありません。出店計画に関しては「②お客様の入店の動きを立地の面から想定」はとても重要ですが、こちらの項目はスコアリングに反映しづらいです。例えば分析の最小単位は町丁目単位ですが、同じ町丁目内でも角地や大通り沿いなど立地には大きな違いがあります。実際に現地に行くことも重要になってきます。

小久保: 人の流れといってもビジネスパーソンが多いのか主婦が多いのか、時間帯や曜日によっても違うでしょうし、実は統計データよりもターゲットが目の前を通っていないこともあります。

定量的な判断材料以外にも、定性的なものもありますね。例えば左カーブの先のお店は、視界に入ってから入店を決めて車を減速させ実際に入店するまでにあまり時間がありません。
例え「このお店、いいな」と思ってもらえたとしても、減速が間に合わずスルーされてしまうこともあると思います。右カーブの先なら、視界に入ってから入店までの時間が多く取れるので、上記のような取り逃しは減少します。

そうやって、現地に行くと別の問題が見つかったりする。ツールだけでわかる情報で判断してしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。

―――確かに、実際にどう見えるかなどはデータからは読み取れません。リアル店舗ならではの問題ですね。

小久保: 立地以外にも売り上げに絡む要素はさまざまですしね。例えば接客が悪くて、一度来たお客様に「もう行かない」なんて思われてしまうと、どれだけ事前の分析結果がよくても意味がありません。

倉田: エリアスコアリングの結果でいいスコアが出たところに出店したとして、必ず売り上げが上がりますとは言えません。複数ある候補地の中から一か所を選ぶ際の指標のひとつとして、意思決定をサポートするためのツールです。GISもそこは同様なのですが、GISよりもさらにわかりやすい指標を提供できると考えていただきたいです。



エリアスコアリングで分析できること


―――先ほどは出店計画を例に説明していただきましたが、ほかの分析にも利用できるのでしょうか?

倉田: さまざな分析が可能ですよ。中でも得意としているものを、必要なデータと合わせて紹介します。

エリアスコアリングの活用例と必要なデータ

①新店舗のオープン候補地の選定(出店計画)

既存店があるエリアはもちろん、既存店がない未知のエリアであっても、データを組み合わせて物件候補地のスコアを算出することができます。

【必要なデータの例】
・統計データ
・自社既存店の住所付き一覧データ
・競合の住所付き一覧データ
・物件候補地までの距離
・薬局の場合なら病院や診療所の有無、ロードサイド店の場合は幹線道路の有無 など

②顧客獲得の可能性が残されているエリアの把握

そのエリアに潜在顧客がどれくらいいるのかを算出します。潜在顧客が多くいることが期待できるのに、実際の顧客数が低いエリアがあれば、集中的な販促施策を実施するなどが考えられます。

【必要なデータ】
・住所付き顧客マスタ
・統計データ
・店舗までの距離
・競合の住所付き一覧データ など

③優良顧客が多くいそうな営業未開拓エリアの把握と対策

優良顧客の有無でスコア化ができます。考え方は②と同様ですが、店舗ではなく訪問営業に向いています。ターゲットエリアが広いほど、リソースの再配置に効果を発揮します。

【必要なデータ】
・住所付き顧客マスタ 
・購買データ
・統計データ など

④特定の商品やサービスのニーズの把握と対策

特定の商品の購買やサービスの利用でスコア化ができます。ニーズの大小を測り、商品ラインナップやサービスの拡充などに利用できます。

【必要なデータ】
・住所付き顧客マスタ
・購買データ
・統計データ
・店舗までの距離 など

これらはあくまで一例です。機械学習を使ってエリアのポテンシャルをスコアリングするというのがエリアスコアリングの本質なので、鮮度と質のいいデータさえあれば、あらゆる分析が可能です。

データと目的の関係イメージ

―――どのようなデータが使えるのでしょう?

倉田: 国勢調査・経済センサス・地価・交通・気候など公的機関によるエリア調査データや、自社の顧客データ(ID-POS)、自店・競合店・集客施設などのポイントデータ、最近熱いのはGPSなどを活用した人流データなどですね。
住所などの位置(座標)を取得できるデータであれば、そのままカウントしたり、それに紐づいたデータを集計するなど活用ができます。

【自社データの例】
●顧客データ(住所/年代/性別)
●POSデータ(商品情報/金額/定価/利益)
●販促実績データ(レスポンス履歴)
●店舗データ(住所情報/店舗別売上/店舗規模)
●競合店データ など

分析結果の精度を上げる伴走体制


―――どのデータを使用するかというのは、どのように決めるのですか?

倉田: 出店計画やポスティングなど、何をやりたいかによって必要なデータは変わります。クライアントが何を求めているのか、何を知りたがっているのかをしっかりヒアリングしながら、使用するデータを決めていきます。

小久保: ここはデータを扱うセンスが必須になってきますよね。目的に対してどういったデータが必要なのか、より精度の高いスコアが出せるような組み合わせはどれかを考えて選ばなければいけません。

倉田: そうですね。使用するデータも、クライアントからいただいたものをそのまま分析するのではなく、項目を抜き出したり、加工をしたりします。実際にあった例では、ロードサイドへの出店を考えてるというクライアントの目的に応じて、いただいた店舗データの中から駅中店を除外するという操作をしました。

とにかくエリアスコアリングはデータが重要です。より精度の高いスコアになるよう、データの組み合わせを変えてさまざまに試行し、クライアントと相談しながら分析しています。

小久保: こうしてコミュニケーションをとりながら最善の方法を探っていく伴走体制も、エリアスコアリングの強みですね。

―――ただデータをいただいて、分析結果を納品して終わりではないのですね。

倉田: システム開発から出発した企業では、クライアントのビジネスを理解して伴走することまではなかなかできないですよね。我々はもともとクライアントのマーケティング支援というのが業務のベースにありますので、そこは強みだと思っています。

小久保: 必要なデータが自社内にない場合は、どう収集していくかといったところからご提案もしますので、とにかくエリアに関するお悩みなら何でもご相談いただければと思います。



技術の進化とともに広がるエリアスコアリングの可能性


―――では最後に、エリアスコアリングの今後についてお聞かせください。

倉田: エリアマーケティング全体の話になってくるのですが、まず分析に活用できる「良質で鮮度の高いデータ」がますます増えていくことで、さらに幅広い分析が可能になっていくでしょうね。

例えばGPSによる人流データ測定はすでに3日前の分まで反映できるそうです。国勢調査などの5年に一度の調査と比べると鮮度がとても高く、さらに高い精度が期待できます。

小久保: 先日、歩道橋の上で交通量調査らしきビデオカメラが置かれているのを見ました。AIで映像を解析しているのだと思います。車の交通量、車種、速度などがAIでカウントできるようになれば、人によるカウントよりはるかに集計も早く、交通センサスのデータ鮮度は間違いなく上がっていきますね。

倉田: AI技術の進化に関しては、効果的なマーケティング戦略の立案や実行にも役立っていくでしょうね。購買行動予測の精度やコンピューターの性能向上も加わり、分析のスピードはどんどん上がっています。オンタイムで処理結果が出せるようになれば、マーケティング活動の成功確率も高まるでしょう。

小久保: いずれはマーケティング施策まで生成AIが考えてくれるようになるのではないでしょうか。分析に際してどのデータが必要なのか、それをどう組み合わせるのかといったことを決めるのにはセンスが必要だと先にお話ししましたが、いずれはそこもAIでできるようになるのかもしれません。

―――エリアマーケティング全体のお話とのことでしたが、データの鮮度が上がり、AIの技術も進歩していくとなれば、エリアスコアリングの精度もさらに上がっていくことになりますね。

倉田: そうなりますね。分析できることもどんどん増えていきます。今は出店計画や販促施策がメインになっていますが、可能性はまだまだ広がっていきます。さまざまなエリアデータと機械学習の組み合わせで、データに新たな価値を生み出していきたいですね。

小久保: もちろん現在でも、今回ご紹介した活用例以外にさまざまな分析が可能です。エリアに関するお悩みがありましたら、何でもご相談ください。

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小久保優作

西川コミュニケーションズ株式会社
名古屋ソリューション本部 ソリューション推進部 営業

NICO入社後、小売・エネルギー業界の得意先を担当し、現在はインフラ業界の得意先を担当しながらエリアスコアリング開発のプロダクトマネージャーを兼務。
創業以来の事業領域である印刷分野をはじめ、AIサービス開発やWebマーケティングなどさまざまな領域の業務に従事している。

倉田陽右

株式会社soda
データアナリスト

2002年西川コミュニケーションズ株式会社へ入社。2007年よりGISをメインとしたマーケティング分析に従事。
設計~前処理(SQL)~データ分析(MarketAnalyzer™・Visual Mining Studioなど)~可視化(Tableauなど)にて支援を行う。
2019年マーケティング・分析部門が分社化し(株)sodaを設立。同時に移動。
現在は上記に加えPythonによる機械学習なども行う。