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フィジカルAIで加速するデジタルツイン。導入成功のポイントはスモールスタート

デジタルツインとは? 注目される理由とその背景
―――まず、デジタルツインとは何でしょう。
野上: 現実世界(フィジカル)から収集したあらゆる情報・データをもとに、仮想空間に現実空間を再現する技術の総称です。現実世界とそっくりな「双子」の3次元モデルを仮想空間上に作り出すことから、このように呼ばれています。
例えば製品や工場、製造設備のデータ、それらの運用データといったさまざまなデータを組み合わせ、仮想空間上に限りなく現実に近い工場を作り上げることができます。単なる静的な3Dモデルをイメージされる場合もありますが、それだけではなく人やモノの動きも再現し、そこでさまざまなシミュレーションを行うんです。
―――なぜ今、デジタルツインが注目されているのでしょうか。
野上: 背景にあるのはDX、そしてその先にあるスマートファクトリー※という自動化の大きな波です。産業界でもさまざまな業務プロセスをデジタル技術に置き換えていくことが急速に進んでおり、その流れの中で期待されているのがデジタルによるシミュレーションなんです。
※スマートファクトリー:センサー、IoTやAI、ロボット技術を駆使し、データをリアルタイムに収集・分析することで、生産の最適化や自律的な稼働を目指す次世代型の工場
―――しかし、シミュレーション自体はこれまでも行われてきたことですよね。特にデジタルツインを活用するメリットとは何でしょう。
野上: 「何度も構想や計画をシミュレーションし、失敗できる」ということにつきます。
工場の自動化に取り組もうとしている企業は多いと思います。しかし、いきなり自動化のための機器を導入することはできないですよね。そう簡単に工場を停止させるわけにはいきませんし、大型の機器を動かすにはコストもかかります。
そして、それらを乗り越えて設備を導入してみたはいいものの、どこかに不具合があった......となれば、不良品を大量に生み出すことにもなりかねません。となると損失も多大です。
―――確かに、現実世界では大がかりなシミュレーションは難しいですね。
野上: データ上なら失敗があったところで大きな損失にはなりません。何度もシミュレーションを行い、たくさん失敗をしながら、最適解を探り出すことができます。サプライチェーン、生産計画、現場の安全確保など、現実で試すにはリスクがあるもの、大きなコストのかかるものを検証するには、デジタルツインが有効なんです。
【デジタルツインにおけるシミュレーション例】
・「もしも(What-if)」を仮想空間で試すシミュレーション
「ベルトコンベアの速度を120%に上げたら、製造に支障はないか、全体の効率はどう変わるか?」といった仮説(What-if)を仮想空間で繰り返し検証し、最適な設定を導き出してから現実の工場へフィードバックする。
・異常や故障を事前に予測し、メンテナンスを最適化する「予兆保全」
工場内の映像や各種センサーからの情報、機械の振動や電力使用量、機械のログデータといったさまざまなデータをAIに読み込ませ、いつ異常や故障が起こるのかを予測。メンテナンスのタイミング等を最適化する。
しかも最近では、これらシミュレーションをAI自身が超高速で行えるようになってきました。
AIが自ら試行錯誤する時代の幕開け
―――AIの活用で、デジタルツインにどういった変化があるのでしょうか?
野上: 従来のシミュレーションは、現状のタクトタイム(1つの製品の製造にかかる時間)に対して「この条件なら生産に何秒かかるのか」を検証し、出てきた結果を見比べてどちらがいいかを決める、というものですよね。人が条件を与え、人が結果を解釈するための道具であり、あくまで人の思考を補助するツールでした。
しかしAIが高度に発展してきた今なら、条件の設定も自律的に試行錯誤してシミュレーションし、現実に適用すべき解まで提示してくれます。人がすべてのケースを考慮する必要はなく、AIが数万、数百万のケースを先に試してくれるようになってきたんです。
―――何万というシミュレーションですか。実際、AIが賢くなるには、それだけの学習が必要なんですね。
野上: わかりやすいのは、ヒューマノイドロボットの開発事例でしょう。現実世界には天候や時間帯による日照の違い、障害物の有無など、さまざまなシチュエーションがありますよね。すべての場面で安定して歩かせるためには、その環境を体験させ、最適な制御プログラムを探っていく必要があります。
現実世界で実験しながら検証するとなると、転倒リスクや高額な部品を破損させてしまう危険があり、時間的なコストもかかりますが、仮想空間上に膨大なパターンを作りAIで強化学習を行えば、圧倒的なスピードで学習が可能です。
工場の機械でも同じことです。「こういう状況ならどうするべきか」をバーチャル空間上でAIに徹底的に学習させ、そこで得た最適解を現場に反映させる。AIでデジタルツインの可能性が飛躍的に拡大しているんです。
―――膨大なデータから学習して最適解を導き出す。仕組みとしては、ChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)と似ていますね。
野上: そのとおりです。オフィスワークでの生成AI活用が当たり前となってきているように、製造業をはじめとする現実世界でも、AI活用が前提条件となりつつあります。
このようにデジタルツインを活用し、現実世界の中で自律的に行動するAIとして注目されているのが「フィジカルAI」です。
デジタルツインを加速させる「フィジカルAI」
―――フィジカルAIとはどういったものでしょうか?
野上: これまでのAIのようにパソコンやスマホなどの画面の中(デジタル空間)で動くものではなく、ロボットや自動車などの物理的な身体を持ち、実世界を見て状況を理解・自ら判断して行動し、現実世界の物理空間に直接作用するAIのことです。フィジカルAIは「頭脳」に加えて「手足」を動かす能力を持ち、自律的に動く(あるいは動かす)ことができるAIなのです。
2025年にNVIDIAのCEOが提唱し、2026年からは「フィジカルAI元年」として本格実装が進むと見られています。
―――自律的に行動ですか。具体的にはどのように動くのでしょう。
野上: 例えば工場で部品を組み立てるロボットアームで考えてみると、従来のロボットでは、あらかじめプログラムされた通りに、決められた作業を正確に再現し、繰り返すことが中心でした。
フィジカルAIはそこからさらに進んで、環境の変化を感知し、自ら判断して適応します。例えば、作業中に異物が誤って混入し作業をさえぎってしまった際に、影響しない場所に異物を退避させて作業を続ける、というイメージです。
フィジカルAIの台頭によって、デジタルツインはさらに高度な予兆保全や、自律的な運用・工場の自動化を先回りしていくらでも試せる実験場の役割として、ますます重要な位置付けとなってきているんです。

立ちはだかる現場の壁
―――そこまで人の手を介さずにできるようになるんですか。実際に現場ではどれほど普及しているのでしょう。
野上: 正直なところ、AIによる自律化はまだ海外の先行事例が中心です。日本では実証実験の段階に留まっているケースが多く、本格的な普及にはまだ時間がかかると見ています。
なぜ日本では時間がかかるのか。理由はいろいろとありますが、私が製造業の方々とお話しする中で感じるのは、以下の2点です。
製造現場のデジタル化の遅れ
海外の製造現場では、3DCADを起点とした全工程のデジタル管理や、PLM※システムによる全体最適化が先行しています。
しかし日本では「レガシーシステム」と呼ばれる古い設備やシステムが今なお現役で稼働しています。
※PLM:PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)。製品の企画・設計から製造、販売、廃棄までの全プロセスで技術情報を一元管理するシステム・手法
経済産業省は、こうした古いシステムを刷新できないことで生じる多額の経済損失を「2025年の崖」として警告してきました。現在はすでに2026年を迎えており、本来であれば回避すべきだった損失が、現実のものとして発生し始めているフェーズにあります。
システムの刷新、DXやスマートファクトリー化の必要性は理解されているものの、最大のネックは「機器更新にかかる莫大なコスト」です。この初期投資の重さが、日本の製造業の進化を停滞させる大きな要因となっています。
デジタルツインの実現には、正確な予測や分析のためのデータ収集が不可欠ですが、レガシーシステムにより情報の取得が困難なため、デジタルツインが進みづらいという現状があります。
カタチのないものゆえの、ROIの見えづらさ
それから、ROI(投資対効果)のわかりづらさも大きな課題です。例えばデジタルツインに取り組んだ場合、どのくらいのコストダウンになるのか?
「手戻り率が〇%改善できます!」と言われれば、企業としても「それはいい、やってみよう」と思われるでしょう。けれど「仮想空間上でシミュレーションできます」では、ピンとこないですよね。
効果がわからないものに予算を出すのが難しいのは当然です。けれど正直、私たちにも「これをやれば工数が何%削減できます」といった具体的な数値は言えないことがほとんどなんですよ。
―――なぜ、具体的な数字がわからないのでしょうか。
野上: デジタルツインだけではなくAIにも言えることなのですが、パッケージ化されたWebツールのように導入してすぐ効果が出るというものではありません。やってみないとわからない部分がどうしてもあります。
まずは検証してみる。その結果を見て、この方法でいけそうだなとなったら、本開発に進んでみる。この積み重ねで進んでいくことになります。受託開発の前のPoC※から進めるケースがほとんどです。
※PoC:Proof of Concept(概念実証)。新しいアイデアや技術が機能するかを本格的な開発・導入前に小規模に検証するプロセス
―――設備に、ROI。導入にはなかなかのハードルがあるんですね。では、そこから一歩踏み出すにはどうしたらいいのでしょうか。
野上: 私たちがお勧めしているのは、まずは一部から取り組むこと、つまりスモールスタートです。
「製造過程のこの部門で、これを管理できるようにする」といったように、まずは具体的な改善ポイントを絞り込んで、そこからデジタルツインを構築し始めるんです。
スモールスタートがデジタルツイン導入のカギ
―――取り組みやすい部分から始めるということですね。
野上: はい。最初は1ラインからでいいんです。課題を絞り込んだうえで、何のデータが必要なのか、どういった可視化をすると管理がしやすいのかを検討し、基盤を構築していきます。実際、私たちがご相談を受けた案件はこの方法でスムーズに進んでいます。
海外の成功事例を見ても、デジタルツインで効果を出すために数年単位の時間がかかっています。一歩ずつやっていく。その積み重ねが最終的には全体のデジタルツインへとつながり、費用対効果も自ずとついてくるはずです。
―――本当に小さなことからでもいいんでしょうか。
野上: はい。まずは現場を3DCGでモデル化するだけでもいいと思うんですよ。製品をMRで体験できるようなコンテンツも、現実と同じものを再現するという意味で幅広くいえばデジタルツインのひとつですから。一度3D化してしまえば、必ずその後も再活用できる資産となります。
実際、倉庫を3DCG化したVRコンテンツを作成した際には、「現場視察の代わりに仮想空間上で動いているうちに、普通に歩いているだけでは発見できないような見えなかった場所のムダに気づくことができた」なんて話をクライアントからお聞きしたこともあります。これもデジタル化の効果ですよね。
以前はそれなりのコストと時間がかかっていた3次元モデルの生成も、3DGS※という新しい技術が登場したことで、実写レベルの高画質な3D空間データが軽量に生成できるようになりました。手軽に始めていただけますよ。
※3DGS:3D Gaussian Splatting。従来の3D表現では困難とされてきたフォトリアルな質感を軽量なデータで高速に生成できるとして期待されている新技術
―――「デジタルツイン」という言葉に縛られすぎる必要はないと。
野上: その通りです。実際のところ、課題によってはデジタルツインではない、別のソリューションのほうが適していることもあるんです。
デジタルツインは使いどころを間違えると過剰な投資になってしまいます。まずは私たちに、現場の困りごとを相談していただければと思います。

現場の最適をともに創るパートナーとして
―――ヒアリングの結果、デジタルツイン以外のソリューションの方が課題に合致しているとなれば、別のソリューションを提案することもあるのですか。
野上: もちろんです。例えば、高度なデジタルツインまでいかなくとも、WebARを活用したシンプルな製品プロモーションをご提案するケースや、AIによる課題解決からスタートする事例もあります。
当社は、中部圏デジタルツイン推進準備委員会にも参画しており、そこでのご縁から中部圏の大学様との連携や、AIベンダー様と共同提案を行えることも強みとしてあります。そのような背景もあり、技術を限定することなくお客様の課題解決に効果的な手段を提示することができます。
デジタルツインについても、技術提供にとどまらず、お客様の会社内での内製をご希望の場合は、デジタルツインを牽引できる人材育成をはじめとする多角的なアプローチで、社内でのプロジェクト推進を後押ししています。
人材育成についてはこちらの記事もご覧ください
―――クライアントに合わせたオーダーメイドな対応をするということですね。実際どうやって「その会社にとっての正解」を見つけ出していくのでしょうか。
野上: 現場の課題は企業の数だけあるでしょう。だからこそ私たち自身がまずお客様の現場を深く理解し、その実情に即した提案をしていくことが重要だと思います。
検証から伴走し、クライアントと一緒に一歩ずつ進めていくのが私たちのスタイルです。漠然としたお悩みで結構です。まずはそのお悩みを、私たちに聞かせてください。
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お問い合わせ野上正義
西川コミュニケーションズ株式会社 デジタルツイン部 セールスエキスパート 大学卒業後、Web/EC領域でマーケティング・制作・広告運用・データ解析に従事。要件整理〜提案〜運用改善まで一気通貫で売上拡大と組織マネジメントを経験。2019年より、XR・デジタルツイン・AI分野に可能性を感じ営業に転身。デジタルツイン部に配属後、最先端技術のソリューション提案を行うセールスエキスパートを担当。

