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仮想現実が解決するビジネス課題 ~ものづくり企業のメタバース~
3DCG 2023.01.20

仮想現実が解決するビジネス課題 ~ものづくり企業のメタバース~

次々と新たなサービスがリリースされ、注目度を増しているメタバース。ゲームなどエンタメ分野での活用から広まったため、メタバース=ゲームという印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、すでにさまざまな分野で活用が進んでいます。

西川コミュニケーションズでも、メタバースを活用したものづくり企業の課題解決に取り組んでいます。今回は西川コミュニケーションズの研究機関「MONOZUKURI-X研究所」でものづくり企業の業務改善支援・研究に取り組むプロデューサー 石川 浩司にインタビュー。メタバースの基礎知識から、メリットと活用事例、そしてものづくり企業において期待されている活用法について聞きました。

メタバースの基礎知識

―――まず、基本的なところから確認させてください。メタバースとは何でしょう。
石川: インターネット上に3DCGで構築された三次元の仮想空間、およびその空間で提供されるサービスのことを指します。メタ(meta:超越した)とユニバース(universe:宇宙)を組み合わせた造語です。

メタバース内では、アバターと呼ばれる自分の分身を介して、離れた場所にいる人たちと対面に近い感覚で交流できます。一番のポイントはこの他者とコミュニケーションが取れるということです。


―――仮想空間の体験といえば、VRが思い浮かびます。メタバースとVRとでは何が違うのでしょう?
石川: メタバースとVRは混同されている方も多いですね。確かにどちらも仮想空間に関連したものですが、このふたつはまったく違うものです。

VR(Virtual Reality:仮想現実)は、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのデバイスを装着し、3DCGの仮想空間の映像を視界全体に映し出すことで、実際にその場に入り込んだような没入感を得られるという技術です。

メタバースがネット上に構築された仮想空間であるのに対し、VRはその仮想空間を体験するための技術という違いですね。HMDを装着してVR環境でメタバースを利用する、という流れになります。


―――では、メタバースの利用にはVR対応のHMDが必要なのでしょうか?
石川: それも誤解をされている方が多いのですが、必ずしもHMDは必要ではありません。PCやモバイルからでもメタバースは利用できます。

ただ、PCなどのモニターを通した利用の場合、どうしても画面越しに平面の絵を見る形になります。メタバースの世界を窓から覗いてるようなもので、HMDを利用する場合とは没入感が違ってきますね。

HMDを装着すると、メタバースの仮想空間が視界いっぱいに映し出されます。その世界に自分の体ごと飛び込んで、あたかもその場にいるような感覚になれるのです。メタバースの仮想空間を最大限に活かすには、やはりHMDのほうが適しています。


メタバースはビジネスにどう活かせるのか? メリットと活用例

―――さまざまな分野でメタバースの活用が進んでいるとのことですが、どのような場面で活躍しているのでしょう?
石川: コロナ禍で人の移動や交流が大きく制限された中、離れた場所にいてもコミュニケーションがとれるメタバースは普及が急速に進んでいます。ビジネス分野でどのように活用されているか、メリットと合わせてご紹介します。

世界のどこからでもアクセスでき、現実に近いコミュニケーションがとれる

世界中どこからでも同じメタバース上のスペースにアクセス可能。リモートワークのツールとしてはもちろん、海外にいる人とも気軽に同じ仮想空間を共有できます。

さらにVR環境でアバターを操作する場合は、身振り手振りがアバターの動きに反映されるため、感情や意思もより伝わりやすくなります。お互いの映像を見ながら会話をするビデオチャットよりも、より対面に近いコミュニケーションが期待できます。

【活用例】

オンラインミーティング
ビデオチャットよりも感情や意思が伝わりやすく、意思疎通がスムーズに。また複数の資料を同時に展開したり、3Dのデータを持ち込むことも可能で、情報の共有もしやすくなります。

仮想オフィス
仮想空間のオフィスに社員のアバターが表示され、現実のオフィスに集まっているような感覚が味わえるサービスです。チャットなどと違い常時接続であることが多いため、テレワークで減りがちだった雑談などもしやすくなることが期待されています。

時間や場所の制約がない

ネット環境があれば、いつでもどこからでも仮想空間へアクセス可能。移動のコストがかかりません。障害のある方や高齢者などの外出が難しい方にとっても、できることの可能性が広がります。

【活用例】

コンサート、イベント、講演会
世界中どこからでも参加が可能。現実のイベントならばついてまわる、施設の収容人数や交通アクセスのしやすさ、周辺地域への配慮といった問題もなく、計画の自由度が上がります。天候などの不確定要素の心配もありません。

仮想店舗
実際の店舗のように商品を見て回れる、バーチャル店舗やショールームもメタバース上で構築可能。商品を見て購入したいという層も取り込むことができ、より幅広くユーザーを集められます。

メタバース上に仮想の街を構築するような巨大プラットフォームも登場しています。仮想空間内に土地を購入し、店舗や家を建て、仮想通貨で買い物を楽しんだり、交流を楽しんだりといったことも始まっています。

非現実的な体験ができる

3DCGで自由自在に構築できるため、現実をそのまま仮想空間上に再現することはもちろん、現実ではありえないような状況を作り出すことも可能。今までにない体験を生み出します。

【活用例】

トレーニング、研修
高所での作業や医療現場など、コストやリスクの問題で現実には再現が難しいような状況も作り出すことができ、より効果的なトレーニング・研修が行えます。熟練者の技術をデータ化して仮想空間上でシェアすることで、技術習得のサポートも。

―――さまざまな分野で活用が進んでいますね。
石川: それから、これは事例ではなく技術のひとつですが、ビジネスへの活用を考えたときデジタルツインの普及も欠かせません。

デジタルツインとは現実世界から収集したデータを、仮想空間上にまるで双子のように再現する技術のことです。国土交通省が主催する「PLATEAU(プラトー)」が有名ですね。

PLATEAU [プラトー] | 国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト

―――メタバースでデジタルツインはどう使われるのですか?
石川: 例えば、メタバース上に実際の工場を再現し、そこでテストやシミュレーションを行うといった使い方が期待されます。新たな設備の導入にあたって、そこにちゃんと設備が入るのか、作業性のいいレイアウトはどうなるのかといったシミュレーションは、現実に行おうとすると大変な準備が必要となります。それらがすべて仮想空間上で完結できれば、コストも時間も大幅な削減になります。

製造業では特に、メタバースとデジタルツインの組み合わせはとても相性がよく、今後もさまざまな分野で活用が進むでしょう。

ただ一方で、一般向けにはたくさんの人が集まって交流や買い物を楽しむようなサービスが注目を集めていることもあって、あまり製造業にメタバースを取り入れるイメージが持てないという方も多いようです。



ものづくり企業におけるメタバースの可能性

―――では、製造業では他にどういう活用ができるのでしょう?
石川: ポイントになるのは、メタバースが三次元の仮想空間であり、資料や製品をメタバース内に持ち込んで現実に近い感覚で見られるという点です。製造業はモノを扱う企業ですから、どうしても「モノを確認する」という作業が重要になります。

そしてこの「モノを確認する」という作業が、製造業の課題にもつながっています。

課題① 製品試作からの手戻りが多い

通常、製品のリリースまでには設計→試作→レビュー→修正→試作......といった工程を何度も繰り返します。
製品レビューは機能やデザインをはじめさまざまな確認のために欠かせない工程ですが、試作品を作るには多大なコストと時間が必要。試作してレビューし、修正を施してまた試作し......を繰り返すことで開発期間が延び、コストも増え続けるという問題をはらんでいます。

・試作の手戻りが多くなれば、開発期間が長くなる&コストが増大する。
・変化の速い現代では開発がニーズに追いつかない。

課題② リモートでの会議が増え、意思疎通が難しい

会議においても製品や設計図を確かめながら話を進めることが多いのも製造業の特徴。しかしコロナ禍で会議もオンラインが増えました。お互いの映像を見ながら会話をするビデオチャットのみでは製品のイメージが共有しづらく、意思決定の遅れなどを招いているようです。

・製品を見ながら話せないので、イメージが共有しづらい。
・PCのモニタで設計図を確認しようとしても、大きな図は一部分しか見られず、並べたり俯瞰したりがしづらい。

ものづくり企業にフォーカスしたプラットフォーム「MetaRoBa(メタロバ)」

―――それらの課題を、メタバースで解決しようというのが西川コミュニケーションズの取り組みなのですね。
石川: はい。2022年にメタバース会議や3Dによるバーチャル製品レビューなどに特化したメタバースプラットフォーム「MetaRoBa」をリリースしました。

バーチャル製品レビュー・会議システム「MetaRoBa(メタロバ)」

プロダクト開発の効率化を左右する、関係者間(設計者・デザイナー・開発者など)のイメージ共有に特化しました。一緒にいるような感覚でコミュニケーションが図れるため意思疎通がスムーズになり、さまざまな業務の効率アップに期待できます。

●バーチャル製品レビューとは
3Dの完成イメージをメタバース上でレビュー。モノを作らないので試作のコストを削減でき、修正から再レビューもスピードアップが期待できます。

※豊富なコミュニケーションツールが利用可能(音声や⽂字⼊⼒によるチャット、空間マーキングを使⽤したコミュニケーション)
※PC・ヘッドマウントディスプレイ対応

MetaRoBaの詳細はNICO 3DCGサイトの商品ページをご覧ください
バーチャル製品レビュー・会議システム「MetaRoBa」|西川コミュニケーションズ


―――製造業の、手戻りや意思疎通といった課題にフォーカスしたプラットフォームということですね。
石川: 先にも述べたように、メタバースといえば世界中から数千数万の人が集まるような大規模プラットフォームというイメージが先行しがちです。しかし、製品レビューや会議で集まる関係者といえばほんの数人。仮想空間での製品レビューや会議に可能性を感じているものの、この規模感の違いのせいでメタバースを活用するイメージがなかなか持てないという製造業の方は多いようです。

MetaRoBaは製造業の課題解決にフォーカスしたプラットフォームなので、「このくらいの規模のサービスを探していたんです」というお声をよくいただきます。製造業にちょうどいいメタバースだと思いますね。

NICOが目指す、3D製品レビューの未来

―――2022年にMetaRoBaをリリースしたばかりですが、西川コミュニケーションズではこれからメタバースにどう取り組んでいくことになるのでしょう?
石川: 3Dの完成イメージをメタバース上で見るという部分はクリアしましたが、正直なところ、製品レビューとしてはまだまだです。レビューで確認すべき点はさまざまにあるわけで、この3Dレビューがすべての製品レビューから置き換わるところまではたどり着いていません。

やはりこれを現実に代わるものまで高めていきたい。メタバース全体の質を高め、現実に代わるものとしての仮想空間を作り出すことが、私たちの今後の進むべき道だと考えています。


―――現実に代わるものには、どうやって近づいていくのでしょう? 
石川: まずは製品レビューに触感や立体音源、つまり人間の五感を取り入れることで、仮想空間をよりリアル化していくのがひとつの目標です。

例えば仮想空間上で3Dの完成イメージに触ることができ、触った感覚がきちんと手にフィードバックされるような仕組みです。現時点ではそこにモノがあるということがわかる程度のものを考えていますが、いずれは製品の手触りや温もりまで伝わってくるところまで作り込めるのが理想ですね。例えば車だったらシートのファブリックの肌触りが分かるだとか、ボタンの押し心地がわかるといったところまで感じ取れると、より製品レビューの幅が広がります。

立体音源は、後方で鳴った音がきちんと後方から聞こえてくるような仕組みです。現在は音が一定の方向からしか聞こえませんが、メタバースは「空間」ですので、どの方向から音が発せられているのかわかるような、現実世界と同じ聞こえ方を再現したいと考えています。これもまた製品レビューの幅が広がりますし、より没入感のある仮想空間の構築にもつながります。


―――それはどういった仕組みになるのでしょう。また、実現の目途は? 
石川: 触感についてはグローブのようなデバイスを利用します。立体音源はデバイスというよりも録音の方法ですね。いずれも技術的には実現の目途は立っており、あとはどの程度の精度でOKとするのかを決めていく段階です。

なお触感に関しては、すでにリアルな車のコックピットモックをCGとシンクロさせるという取り組みも進めています。これは製品レビューだけでなく、仮想空間そのものの課題でもあるのですが、どこまでいってもデジタルのみではどうしても飽きがくることがわかっています。最終的にはデジタルのいいところとアナログのいいところを融合することが必要になってくるのだと思います。


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現実と同等の価値を持つ、仮想現実の未来へ

―――では、メタバース自体は今後どのように使われていくと考えていますか?
石川: 製造業で言えば、販売促進の現場でも使われていくかもしれませんね。展示会や工場見学なども需要がありそうです。特に製造業は海外の企業とも取引が多いので、世界中どこからでもアクセスできるメタバースはうってつけです。

サポートや保守での活用も増えそうです。現在はチャットやコールセンターで対応している部分を、メタバースに常駐するプロフェッショナルが対応してくれるといったサービスが考えられます。

製造の場面でも販売促進の場面でも、これまでリアルの世界で行ってきた業務の大部分がバーチャルに置き換えられるようになるのではないでしょうか。


―――現実の世界が仮想空間に置き換わっていくようになるということですね。
石川: 実は「バーチャル」という言葉の意味について、日本人と英語圏の方とでは受けている印象がかなり違うと言われています。日本では「バーチャル」は「仮想の」と訳されていますが、本来の英語のニュアンスは「外見は違うが、本質を示すもの」なのだそうです。

このニュアンスの違いもあり、日本人はあくまでバーチャルを「仮のもの」と捉えている部分が多いと思うのですが、これが将来的にはまさに本来のニュアンスである「本質を示すもの」になっていくのではないかと言われています。

今は現実を模倣した世界、デジタルの作り物と捉えられているバーチャルの世界が、いずれは現実に等しいものだという意識に変わってくる。我々もそういう世界に備えて、メタバースやVRなどの技術開発に取り組んでいます。


―――西川コミュニケーションズでは、中部地区のものづくり企業を支援するための研究機関も発足していますね。
石川: 2022年に中部のものづくり企業の支援を目的とした「MONOZUKURI-X研究所」を発足させました。メタバースやVRなどの技術を活用し、ものづくり企業のDXと継続的な発展を支援するための研究開発を、産学連携で進めています。興味のある方は、ぜひお問い合わせください。


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石川 浩司

西川コミュニケーションズ株式会社
MONOZUKURI-X研究所 プロデューサー

入社後DTP・デザイン・システム開発・マーケティング・プロモーションを経て2015年に3DCG事業を立ち上げ推進中。
現在は今回ご紹介するMetaRoBaをはじめ3DCG制作やインタラクティブコンテンツ制作・XR・HMD販売など幅広いソリューションサービスを研究・開発・販売するプロデューサーを担当。