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 自発的な学びへの道筋がポイント 西川コミュニケーションズのAI人材育成事例
社内活動 2023.12.22

自発的な学びへの道筋がポイント 西川コミュニケーションズのAI人材育成事例

急速に変化する時代、もはや企業の生き残りに欠かせないのがリスキリング。中でもChatGPTに代表される生成AIの一大ブームにより、AI人材の育成に注目度が高まっています。西川コミュニケーションズではその必要性にいち早く気づき、従業員にAIリテラシーの獲得を呼びかけてきました。そして今、それに応じた従業員がAI人材として活躍しています。

今回は、西川コミュニケーションズのAI研究開発部門を分社化して設立された「株式会社soda」のAIエンジニア國田圭佑と、西川コミュニケーションズの人事責任者である神谷昌宏にインタビュー。工場勤務からAIエンジニアに転身した國田圭佑の経験をもとに、従業員の自発的な学びを導いてきた当社の人材育成について紹介します。

粘着剤からAIへ、大きく変わった研究テーマ

―――まずは國田さんの経歴について教えてください。
國田: 大学では化学を専攻しており、西川コミュニケーションズ(以下、NICO)の入社後は印刷工場に配属されてNICOのオリジナルマスキングテープ「bande」などに使われる粘着剤とコーティング剤の研究をしていました。

マスキングテープは台紙がなく、テープを直接ロール状に巻いていくものですから、粘着力のバランス調整がとても重要です。弱すぎるとロール状が保てず、強くし過ぎると今度はロールからはがせなくなってしまう。ちょうどの加減を目指してあれこれと試行錯誤していました。

その仕事を続けながら2019年にG検定を取得し、名古屋本社に異動。社内のシステム開発やインフラサポートを担うICT部門に配属になり、社内のAIプロジェクトに参画しました。その中で、Pythonや深層学習についての学習を進めつつ、AIエンジニアとしてのスキルを磨き、最終的にはE資格を取得しました。現在はNICOのグループ会社でありAI開発を担う株式会社sodaで、AIの研究開発をしています。

G検定
ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定するジェネラリスト向けの資格。

E資格
ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定するエンジニア向けの資格。


―――どういったAIの研究開発をされているのでしょう?
國田: 私が特に力を入れているのは生成AI、中でも画像からテキストを生成することです。例えば、ファッションアイテムの画像を読み込ませたら、そのアイテムの特徴を読み取って自動でECサイト用の紹介文やキャプションを作る。さらに、それに見合うコーディネートの提案までできないかということを、社内のAIプロジェクトで検証中です。


―――sodaの公式サイトでブログも書かれていますね。
國田: あれは半分趣味のようなものですが(笑)。AIのビジネス活用といった話よりは、自分が「おもしろい」と思ったAIの技術について、少し遊び心を入れながら書かせてもらっています。
AI技術の背景にある難しい数式や理論を極力省いて、誰にでもわかりやすいようにAIの技術を紹介する試みです。

sodaサイトのブログはこちらから
Stable Diffusionでミロのヴィーナスを復元してみる | soda

このブログを読んだエンジニア向けの専門誌「Software Design」編集部の方から声をかけていただいて、雑誌の連載もしていたんですよ。2023年6月号から24年1月号まで全8回、Stable Diffusionと呼ばれる最先端の画像生成AIのしくみについて解説する記事を掲載していただきました。こちらも「技術的な内容を分かりやすくまとめてある上に、おもしろい」と非常に好評でしたね。

「Software Design」公式サイトはこちらから
Software Design 2024年1月号




AIを学んでほしいという会社からのメッセージが、転身のきっかけ

―――なぜ粘着剤の研究者からAIエンジニアへの転身を考えられたのでしょう?
國田: デジタル技術の進化がどんどん進む中、このまま印刷の仕事を続けていてもいいのかという不安があったんです。

そんな中、従業員を集めて会社の方針を発表する全体会議の場で、社長から「NICOでは今後、AIの活用に力を入れていく」という発表がありました。ならばそちらにチャレンジしてみようか、と思ったのがきっかけです。

神谷: 2017年の全体会議での発表ですね。そのころ、教育プロジェクトとしても、従業員にAIリテラシーを身に着けてほしいというメッセージを打ち出しています。もともと共通して持っておいてほしい知見のひとつとしてITリテラシーを指定していたのですが、そこに追加をした形です。

國田: 当時すでに第3次AIブームが始まっていましたよね。これからAIのビジネス活用が進むという社長のお話や、AIリテラシーを身につけなければというメッセージは、とても納得がいくものでした。

神谷: ただ、当時はまだAI人材を育成するといった意識まではなかったように記憶しています。とにかくまずG検定にチャレンジしてみようという段階でしたよね。社長が率先してG検定を取得しているのですが、それもこのころだったのではないでしょうか。

國田: そうでしたね。工場に来られた時にもG検定の勉強をされていましたよ。工場の椅子に座ってテキストを読んでいた姿を覚えています(笑)。

神谷: そうやって社長が率先してG検定を取得する姿を見せたことで、AIに取り組もうとする会社の本気を感じた人も多かったでしょうね。実際、この時期に多くの従業員がいち早くG検定を取得しています。

國田: それはありますね。それと実は個人的に社長からも声をかけられたんです。G検定と、その上級資格のE資格を受けてみたらどうか、と。実は私が資格にチャレンジしたきっかけとしてはそれも大きかったです。

ただ、聞けばE資格はエンジニア向けの上級資格だというじゃないですか。その時点ではプログラミングのスキルもなく、AIエンジニアに転身することまではまだピンときていなかったので、ひとまずG検定を受けてみることにしました。興味を持ち始めたのは、G検定の勉強中に生成AIを知ってからですね。「AIエンジニアになろう」と本気になったのは、実際にはG検定の取得後なんです。「生成AIを自分の手で作ってみたい」と思い、プログラミングはじめ、E資格に向けた勉強をスタートしました。

従業員の学びをサポートする教育プロジェクトとは

―――2017年時点で多くの従業員がG検定の取得に取り組んだとのことですが、それよりも前から、NICOでは従業員の自発的な学びをサポートしてきたのですよね。
神谷: どの企業でもそうだとは思いますが、NICOにも急激に変化する時代への危機感があり、リスキリングという言葉が使われだす前の2013年から教育プロジェクトチームを発足させて、人材教育に取り組んできました。

西川コミュニケーションズの人材育成について、詳しくはこちらの記事をご覧ください
「学びなおし」が成長のカギ 変化の時代を生きるための人材教育とは | 西川コミュニケーションズ株式会社

資格取得に関しては、以下のような取り組みでサポートをしています。

●資格取得の費用は会社が全額負担(講座受講やテキスト購入など含む)
●業務時間の1~2割を勉強にあててもよい(時間は部署によって異なる)
●取得した資格のレベルに応じて給与に手当てを加算(対象となる資格のみ)
●推奨資格の過去問題を毎日メールで配信


―――学んでほしい分野を特に限定しているわけではないのですよね。
神谷: そうなんです。西川コミュニケーションズが求める理想の人材像は「先進技術を柔軟に取り込みながら、新しい発想でビジネスモデルを構築できる人」です。基本的に身に着けてほしいスキルと関連して、
「ITパスポート」
「G検定」
「ウェブデザイン技能検定3級」
の3つを推奨資格としていますが、それのみを学べばいいとは考えていません。それ以外の、個人的に取得したい資格についても、会社の許可が下りたものは費用負担や業務時間内の勉強など推奨資格と同じ条件でサポートしています。

推奨以外の資格を強制するわけでもありません。現在AI人材として活躍してくれているのは國田さん含めいち早くG検定の取得に向けて動き出してくれた人たちが中心で、皆さん自発的にAIを学びたいと手を挙げてくれました。


―――従業員の自発的な学びであるというところがポイントですね。
神谷: 資格を取ることが自分にもプラスになると思ったうえで取り組んでもらうのが一番です。また、資格取得に至るまでに獲得する知識・スキルこそが大切だと考えており、そのための道筋をつけることが教育プロジェクトの役割だと思っています。

資格のレベルに応じて手当てが加算されるというのがまさにそうですよね。G検定やITパスポートといった初級の資格を取得した人たちが、そのさらに上級の資格にチャレンジするきっかけにもなっていると思います。

推奨資格の過去問配信についても同じです。接点がないと名前すら忘れてしまうと思うので、メールを受信することで資格取得を意識し続けてもらいたい。強制するより気の長い話ですが、人材育成なんて短期間で何とかなる話ではないですから。

実際、これらの制度がスタートして以降、資格を取得する人が増えているので、効果は出ていると思います。



サポートのメリットと課題

―――國田さんは実際、これらの制度を利用していかがでしたか? 感想を聞かせてください。
國田: 費用を全額負担してもらえるのはやはり大きいですよね。しかも受ける講座は自分で選ぶことができたので、かなり自由にやらせてもらえました。おすすめの講座は提示をされていましたけれど、それ以外のものでも上長の許可があればOK、テキスト代ももちろん会社に負担してもらえます。

ちなみにテキストは社内で先にG検定を取得していた人から譲っていただくこともありました。これも会社としてこれだけのサポート体制があり、チャレンジする人が多いからこそですよね。


―――勉強時間の確保についてはいかがですか? 当時はまだ業務時間の2割を勉強にあてていいという決まりがなかったと聞いていますが。
國田: 工場勤務の間は勉強時間が取りづらかったですね。G検定の勉強はすべてプライベートの時間でやっていました。仕事の性質上、これはどうしても仕方がないのですが。

E資格に向けた勉強を始めたころにICT部門に異動になり、そこでは空いた時間があれば業務時間内でも勉強していいと許可をいただけたので、とても助かりました。

神谷: 工場に限らずですが、複数人が関わる案件が動いている中で時間を作るというのはどうしても難しいですよね。そういった声をもとに業務時間の一部を勉強にあてていいというのが正式なルールができたのですが、希望どおりそれができているかは部署によってまだ偏りがあります。それは今後の課題ですね。

國田: サポートの制度はまだまだブラッシュアップするべきところがありますね。今では私も教育プロジェクトに参加しているので、資格を取得してきた従業員の立場からいろいろな意見を出して改善していけたらと思っています。

楽しむことの延長線上にある、AI人材育成の今後

―――資格取得のサポートに関して、今後はどんなブラッシュアップがされるのでしょうか?
神谷: 直近で取り組んでいるのは過去問配信の改善です。もう少し皆さんが回答しやすいように仕組みを変えたり、問題をより適切なものに更新して行く予定です。

國田: 過去問配信に関しては、誰がどれだけ回答しているかのレポーティングも計画しています。定期的に集計をとって、上長と共有したり、従業員に公開したりということを考えています。今はそれを自動でできるスクリプトをテスト中です。

神谷: それから、社内広報も課題です。資格取得の費用を全額負担しますといっても、受からなかった場合は負担してもらえないと勘違いしている人がいるようなんですよ。実際は一回目の場合は合否に関わらず全額会社負担、二回目以降は合格の場合のみ会社負担なのですが、そのあたりの情報がしっかり周知されていないんですね。

國田: それでチャレンジしないとなるのはもったいないですね。

神谷: 教育プロジェクトに限った話ではないのですが、プロジェクトごとに施策を考えることはできてても、それを発信するところまで追いついてないことが多いんですよね。どうやって社内にわかりやすく伝えていくのかは大きな課題だと感じています。


―――では、國田さん個人としては、今後どうしていきたいと考えていますか?
國田: 業務としては先にお話しした画像からテキストを生成するAIの改良を進めていくことですね。

ただ、個人的にはもっと楽しめるプロダクトを作りたいと思っているんです。例えば、画像を読み込ませると、その内容に沿った小説をAIが作ってくれるようなものとか、逆にツッコミどころ満載の「ボケ」をAIが生成してくれるものとか。これはもうビジネス半分、趣味半分の話になってくるんですが(笑)。でも、半分は趣味でなければ私は多分ここまで熱心にやってこられなかったと思うんですよ。

神谷: 楽しむことって大事ですよね。改善するのが大好き!ということならいいんですけど。実際そういう人もいますからね。そうじゃない場合はただ業務改善のためにプログラミングを覚えるとなったら正直しんどいでしょう。

國田: それだと、どうしてプログラミングなんて覚えなきゃいけないんだとなってしまうでしょうね(笑)。最近、社内で「社内改善のためにプログラミングを勉強したい」と相談をされることがあるんですが、それだとしんどくならないかちょっと心配しています。

プログラミングって、業務改善のためだけのものじゃないんですよね。AI開発やクリエイティブなど、できることは多々あるのに「業務改善と関係ある部分だけ学びたい」と、楽しめるポイントや重要な部分を切り捨ててしてしまう人が多い。本当にもったいないんですよね。実際、私が開発を手掛けているAIも、一見関係なさそうな遊びの中で得た知識やアルゴリズムがふんだんに盛り込まれてるんですよ(笑)。

神谷: 硬く考えず、楽しんでやっていく中で得た知見を業務に適用していくということでいいと思うんです。そのためにも、まずは本当に自分が価値を感じる業務をブラッシュアップしたり、より付加価値を高めるためにどうAIやITのリテラシーを使っていけるかなと考えてみてほしいですね。

その延長線上として、AI人材に限らず新たなスキルを持つ人材が増えていくことを目指しています。そのためには自発的な学びが必要であり、その道筋をつけることが教育プロジェクトの役割ですね。今後もさまざまな施策で人材育成を進めていきたいです。

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神谷昌宏

西川コミュニケーションズ 人事責任者

販促物の制作業務を担当後、制作部門マネジャーとして売上拡大に伴う体制構築・運用フロー策定に携わり、採用から教育計画・労務/品質/数字管理まで幅広く経験。クライアントへの出向を経て、現在は人事責任者として全社制度設計や教育施策の立案を担当。

國田圭佑

株式会社soda(データ関連事業子会社) AIエンジニア

深層学習・機械学習分野における製品開発・技術研究とクラウド実装に従事。得意領域は、Stable DiffusionやGPTなどをはじめとした生成AI分野。Software Design(技術評論社)にて「Stable Diffusionで学ぶ画像生成AIのしくみ」(2023年6月号~2024年1月号)を連載。
JDLA Deep Learning for Engineer 2021#1(E資格)合格者。