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資格制度の後押しで挑んだ「E資格」――異分野から切り拓くキャリア

AIとは関連性が低かったこれまでの業務
―――まずはこれまでのお二人の業務について教えてください。
池田: 私は印刷に必要な版(ハンコのようなもの)を作る製版の部署で、製版業務と画像のレタッチ(画像の合成や補正)の両方を行ってきました。一時期は制作部でも勤務したのち、再び製版に戻っていた2024年3月にE資格を取得しました。
その後もしばらくは製版の部署でGAS※を使った業務改善などを担当し、2025年2月にAI開発を行う西川コミュニケーションズ(以下、NICO)のグループ会社「株式会社soda」に異動しました。現在はデータサイエンティストとしての専門性を磨くべく、日々データと向き合っています。
※GAS :Google Apps Script。GmailやGoogleスプレッドシートなどのGoogleサービスを自動化するためのアプリケーション開発プラットフォーム。
多治見: 私はNICOのグループ会社になる前の「株式会社さまあ」に入社し、NICOの3DCG関連の事業部に転籍して今に至ります。E資格は2025年3月に取得しました。
主な業務はプログラミングです。ゲームエンジンのUnityを使った3DコンテンツやWebアプリの制作の他、Windowsのシステムやサーバーの開発などにも携わってきました。最近ではNICOが提供している産業向けのVR安全教育「TRAST」の開発も担当しています。
NICOのVR安全教育について詳しくはこちらをご覧ください
企業それぞれの現場を再現。自ら考え行動できる、より教育効果の高い可変型のVR安全教育とは
―――池田さんは製版ということはまったく違う分野からの挑戦ですね。印刷業務もデジタル化が進んでいるとはいえ、プログラミングやAI開発とは関連性が低いのでは。
池田: そうですね。でも今思うと、これまでの業務が役立っている部分も多いんです。
例えば、制作部では主にチラシの原稿管理と校正の取りまとめをするチームにいました。チラシはひとつの案件であってもお店の地域や規模によって掲載商品が異なり、原稿や出来上がる紙面に数多くのパターンが生まれます。その複雑な原稿や紙面を適切に管理し、ミスなく印刷に送り出すのが私のチームの役割でした。
そしてひとつの案件を一人の担当者が丸抱えするのではなく、複数のスタッフが横断的に受け持っていたので、スタッフに業務を適切に分配していく必要もあります。どの作業を誰にどう分配していくかを振り分けていくのも私の担当だったんです。
この、業務を細分化して処理していくという考え方がプログラミングに活かせているなと思うんです。課題の細分化というのはプログラムを書く上で重要な思考なので。
―――なるほど。プログラミングとは関係のない業務のようで、実はプログラミング的思考で仕事をしていたというわけですね。一方で多治見さんの業務はプログラミング中心とのことで、AI開発と近しい印象なのですが、いかがでしょう。
多治見: いえ、やっぱり分野が違うものだと思います。従来のソフトウェア開発ではプログラムがどう動くかをエンジニアが定義するものであるのに対し、AI開発ではAI自身が自律的に動けるようトレーニングさせることになります。そこに大きな違いを感じました。
モデルの精度を上げるには、AI開発特有のコツもありますし、プログラミングとは別で経験値が必要ですね。
AI開発に必須の数学知識はUnityで3D空間を設定するための計算とも共通する部分があるので、これまでの業務で培った知識が活かせた部分もありますけど、やっぱり分野は違うものだと感じました。
E資格チャレンジへのきっかけ
―――お二人ともそれぞれに違ったAIとの距離感があったようですが、どちらも業務としてAI開発に関わっていたわけではないですよね。なぜE資格を受けようと思われたのでしょうか。
池田: 私のきっかけは、制作部にいたころに実施された社内アンケートでした。時代の変化に対応するため、新たなスキルが必要だという方針のもと、一人ひとりに興味のある分野を聞かれたんです。私は「AI」と答えました。
ただ興味があるというだけで、特に知識があったわけでもないんですが。
でもそう答えたからには「ちょっと興味がある」だけの状態を超えてみようという気持ちになって、NICOが取得を推奨しているG検定※を2020年に受けたんです。その申し込みをするときにE資格の存在を知り、じゃあ次はE資格にチャレンジかな、と。
※G検定:ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定するジェネラリスト向けの資格。E資格と同じく一般社団法人日本ディープラーニング協会が認定している。
―――E資格は非常に難易度の高いエンジニア向けの上級資格ですが、それを知った上でチャレンジしようと思われたのですか?
池田: いえ、その時点ではプログラミング系の資格だということくらいしか(笑)。でもG検定の勉強を通して、やればできるだろうという手ごたえは感じてたんですね。
とはいえすぐに受験したわけではなく、その後は少し間が空いてしまいました。そのうち制作部でリスキリングの取り組みがスタートし、私はプログラミングなどのアプリ開発のチームに参加することになって、そこで改めてAIに取り組んだんです。
さらにNICOの資格制度が制定され、規定の資格の取得者には資格手当が支給されるという発表がありました。E資格もその対象ということだったので、では本気でチャレンジしてみよう、と。
【NICOの資格取得に関する取り組み】
●資格取得の費用は会社が全額負担(講座受講やテキスト購入など含む)
●業務時間の1~2割を勉強にあててもよい(時間は部署によって異なる)
●取得した資格のレベルに応じて給与に手当てを加算(対象となる資格のみ)
詳しくはこちらの記事をご覧ください
自発的な学びへの道筋がポイント 西川コミュニケーションズのAI人材育成事例
―――資格手当の制度がモチベーションになったわけですね。多治見さんはいかがですか。
多治見: 私もきっかけになったのは資格手当ですね。2024年の3月にさまあからNICOに転籍した際に資格制度を知って、どれか取得してみようという気になったんです。
とはいえいきなりE資格はハードルが高いなと思ったので、まずはIPAの「情報処理安全確保支援士」※を取得しました。それからさらに上を目指そうと思ったところで、IPAの上位資格にするかE資格にするかで迷ったんですが、もともとAIに興味もありましたし、E資格を目指すことにしました。
※情報処理安全確保支援士:企業のサイバーセキュリティに係る専門的な知識・技能を備えた人材の国家資格。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が認定している。
―――3DCG開発からAI開発への転身を考えられてのことなのでしょうか。
多治見: いいえ、3DCGにもAIが関わってくるんですよ。例えば現在、NICOが推進しているデジタルツイン。現実世界とそっくりな3次元モデルを仮想空間に再現し、それを使ってシミュレーションなどを行うというものです。ここにAIを連携させることで、シミュレーションの結果を分析して予測や改善を自動で行うなどの活用が考えられます。
デジタルツインとAIの関係性についてはこちらの記事でも解説しています
試行錯誤を繰り返せるシミュレーションで、ものづくり企業のDXを促進。デジタルツインの可能性とは
―――なるほど、3DCG分野にAIを取り入れるということですね。それは部署としての方針でもあったのでしょうか?
多治見: 明示されていたわけではありませんが、デジタルツインの発展とAIはペアのように語られていますし、今後3DCG開発にもAIが必要になってくるのは確実ですから、チャレンジしてみようと思いまして。
―――ではお二人ともAIへの興味が、資格制度をきっかけに実を結んだわけですね。
池田: 資格制度の存在はやっぱり大きかったですね。うちはまだ子どもが小さいので、平日帰宅してからや週末の時間を勉強にあてるとなると妻に負担がかかります。けれど資格を取得すれば手当がつくというのもありましたし、私のキャリアや将来のためになると理解してくれて、協力してくれました。
多治見: 私はもともと技術書などを読んで勉強するのは好きなんですが、今までは資格を取ったからといってそれがメリットに繋がることがなかったもので、なかなか興味がわかなくて。資格制度があるからこそ、取得してみようという気になりましたね。
実務をこなしながらの合格までの道のり
―――資格取得のためにどのくらい勉強をされましたか?
池田: 平日は帰宅してから1~2時間、週末はなるべく勉強時間に費やしていました。図書館で受験生に混じって勉強してましたよ(笑)。
それから、制作部のリスキリングの取り組みでは、業務時間の2割をリスキリングにあててもいいということになっています。製版に異動した後もリスキリングは継続していたので、業務時間も勉強に使わせていただきました。
多治見: 私も業務時間を使うことはできたんですが、その時は業務が立て込んでいたのでちょっと難しくて。通勤時間や昼の休憩時間、それから平日帰宅してからの1~2時間ぐらいで勉強していましたね。
池田: 業務時間を使えるかは部署や業務の状況にも左右されてしまいますよね。私の場合はリスキリングの時間に画像編集ソフトのスクリプトを作り、手作業だった業務を自動化できたという背景もあったんです。業務を効率化することで空いた時間を勉強にあてることができました。
―――それは会社としても理想の形ですね。合格までの期間はどのくらいでしたか。
池田: 私はちょっと時間がかかってしまって。まずE資格を受験するには指定の講座を受講してその課題をクリアする必要があるんですが、過去問題集での勉強も並行していたので、どちらかに集中すると一方が進まないという状態で......。2023年の2月からはじめて、なんとか講座を終えたのが8月でした。
そしてその2週間後に受験したんですが、そこで一度玉砕したんですよ。そこからまた半年間、勉強し直して再チャレンジし、合格できたのが2024年3月でした。
多治見: 私も指定の講座を受講して過去問題集に取り組んで、という流れは同じです。2024年の11月から取り組んで翌年2月に受験(発表は3月)だったので、4か月ぐらいで合格しましたが......なかなか大変でした(笑)。正直、もうちょっと余裕を持ったスケジュールを組んでもよかったなと思います。
―――多治見さんの4か月というスピードもお見事ですが、池田さんの粘り強さもすばらしいですね。一度玉砕したということですが、そこから再チャレンジしようと思えたのはなぜでしょうか。
池田: 多分、今までで一番勉強したんです。半年間、勉強をがんばれたというのが私の中でひとつの自信になっていて、やればできるんだ、と。じゃあもう半年もがんばれるだろうと思えたんですよね。
それに、もうこの先は一生勉強だなという気持ちになっていたんです。E資格に取り組むうちに、スイッチが入れられたというか......。この先もどうせ勉強するんだからと思えば特に迷うこともありませんでした。
資格取得後の現在の業務と、資格制度への思い
―――勉強を通して姿勢の面でも変化があったのですね。では業務のほうにはどのような変化がありましたか?
池田: 今はsodaに異動しましたので、AI開発とデータ分析の仕事に携わっています。主に担当しているのは、マーケティング投資の最適化をサポートするMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)のデータ解析です。
実際のデータを解析することは、日々発見の連続です。自らの強みを活かして新たな価値創出に挑んでいきたいと考えています。
sodaのMMMについて、詳細はこちらをご覧ください
ad:tech tokyo 2024に初出展! マーケティング投資を最適化する「MEDIA CANVAS」とは
多治見: 私はまだ具体的な案件があるわけではなく、いろいろと調査や検証をしている段階です。やはり中心になるのはデジタルツインでのAI活用ですね。デジタルツイン開発に使われるNVIDIA Omniverse™ EnterpriseというプラットフォームとAIの連携を検証しています。
E資格の取得のために勉強したことは基礎的な部分が中心なので、それを実際にシステムに組み込むノウハウはまだまだわかっていなくて。AIと連携させたシステムを作ることを目標に掲げて、勉強や検証をしています。
NVIDIA Omniverse™ Enterpriseについて詳細はこちら
NVIDIA Omniverse™ Enterprise|西川コミュニケーションズ
―――では、その変化のきっかけとなった資格制度に対する思いや、感じているメリットを教えてください。
池田: 私はもともとAIに興味があり、好奇心の赴くままに進んでみた結果、今があります。その中で「チャレンジしてみよう」という大きなきっかけになったのはやはり資格制度でした。チャレンジを後押ししてくれる存在ですよね。
多治見: AIに限定してお話しすると、やはりAIを学ぶことは今後ますます必要になってくると思います。AIがどういう仕組みで動いているのかが理解できると、何ができて何ができないのかも見極めやすくなります。開発する側だけではなく、利用する側にとっても大きな助けになるのではないでしょうか。
AIの進化はとても早く、先行きが読めない部分もありますが、学んでおくメリットは大きいと思います。そこに資格手当という実利もあるわけですし。
池田: AI、特に生成AIの進化は本当に目覚ましいですよね。今までは興味はあってもそれ止まりになってしまっていたものでも、一歩踏み出させる力がAIにはあると思います。
あとは、やるかやらないか。それだけだと思っています。もちろんAI以外の資格も含め、資格制度が多くの従業員のチャレンジのきっかけになればいいなと思っています。
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お問い合わせ池田浩幸
株式会社soda データサイエンティスト 2005年西川コミュニケーションズ株式会社へ入社。 製版チーム、制作チームを経験。リスキリングをきっかけにプログラミングによる業務効率化に従事。 2025年2月よりsoda、データサイエンティストとして着任。
多治見湧
西川コミュニケーションズ株式会社 ビジネスデザイングループ Unityを使用して、ゲームをはじめ産業用VRや業務用ソフト等、多様なアプリケーションを開発。一方でさまざまな言語やフレームワークを利用して、Windows向け業務アプリケーションやWebシステムの開発も行う。