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「担当者だけ」から「誰でも」へ。物流拠点の在庫管理を変えた自社開発システム

属人的な管理をデジタル化。「スマロジくん」開発の背景
―――まずはロジセンターについて教えてください。具体的にどのような業務を担っているのでしょうか。
深田: ロジセンターは西川コミュニケーションズ(以下、NICO)の物流の拠点です。カタログやチラシといった自社で製造した印刷物はもちろん、協力会社から仕入れたノベルティなどの幅広い製品が運び込まれ、仕分け・梱包を経て各地へと出荷されています。印刷部門とともに東海BPOセンターの中にあり、NICOのBPO業務を支える重要な役割を担っています。
このロジセンターの在庫を保管しているのが移動棚です。15列のラックに16の区切り、さらに縦方向に3つの区切りがあり、720の保管場所があります。2021年の導入以来、ロジセンターの在庫はほぼここに保管されてきました。
実際のロジセンターの移動棚。棚がレールに沿って動かせるため、固定棚のようにラックごとに通路を確保する必要がなく、限られたスペースを効率よく活用できる
近藤: 今回、私たちが開発したのが、この移動棚の管理システム「スマロジくん」です。目指す在庫が、どの番地(保管場所を示す棚番号)に、どれだけあるのかを、スマホひとつでどこにいても確認いただけるように設計しています。
【スマロジくんの仕組み】
【実際の操作画面】
なお開発にはローコード開発ツール「Claris FileMaker®︎」を使っています。
Claris FileMaker®︎を使ったローコード開発についてはこちらの記事もご覧ください
―――オリジナルシステムなんですね。このスマロジくんという名前にはどのような意味があるのでしょう?
深田: スマートロジスティクス、略してスマロジ。そこに親しみやすさを出すために「くん」を加えたそうです。システムを発注した私の前任者の命名です。
近藤: 仕組みができるよりも先に名前が決まっていました(笑)。
―――システムの導入前はどのような管理がされていたんですか?
深田: 入出荷の数量に関してはNICOの受注情報を一元管理している基幹システムから取得していました。しかし、在庫数は紙で出力した書類上に記入していくというアナログなスタイルです。そしてその在庫が棚のどこにあるのかは、ピッキング担当者の頭の中にしかないという状況だったんです。
近藤: 実は移動棚が導入された時点で他社製の管理システムも導入されたようなんですが、現場の細かい運用ルールに合わず、使いこなせなかったと聞いています。
深田: 私はスマロジくんの導入と同じタイミングでロジセンターに異動してきましたので、以前のシステムのことは後から聞いたのですが、NICOの実務にフィットしていなかったようですね。
例えば、NICOで扱う製品は入れ替えが激しいんです。導入したシステムは定番品の管理には向いていたんですが、入れ替えが激しい現場には向いていなかった。それから、ひとつの製品が複数の番地に保管されているときに、任意の番地からピックアップができないという問題もあったようです。

―――定番品を扱う汎用型の既製品と、多種多様な製品を扱うロジセンターの現場の間に溝があったんですね。それで結局、アナログ管理になってしまっていた、と。
深田: 在庫を取り出す業務は特定の担当者のみがやっていたので、属人化していても大きな問題にはならなかったようです。
しかし、品名が同じでも製造年が違うなどパッと見では判別しづらい製品も多いんです。慣れている担当者であっても、ピッキングのミスが起こるリスクがありました。やはりこのままでは危ないということで、私の前任の担当者が開発部署へ「社内開発で解決できないか」と相談したのが始まりです。2023年末のことだったそうですね。
近藤: まずは単純機能で作ってみようということで、スモールスタートでプロジェクトが動き始めました。私は2024年2月に開発担当として加わり、現場の方の声を取り入れつつ機能を充実させていきました。本格的に現場で運用を開始したのが2025年2月です。
深田: そのタイミングで私がロジセンターに異動し、それまでのアナログ管理と並行しながら、スマロジくんの運用を軌道に乗せるという役割を託されました。
720カ所を地道に登録。紙と併走した本格運用までの試行錯誤
―――導入はスムーズにいったのでしょうか?
深田: 最初は大変でしたよ(苦笑)。まずはすでに棚に置いてある在庫の番地を登録しなければならないので。
番地の登録には、製品につけた下げ札のQRコードと、その製品を置いた棚のバーコードの両方を登録する必要があります。異動したばかりでどこに何があるのかもわからない中、棚をひとつひとつ見回って何が置かれているのか確認し、下げ札を付けてQRコードを読み取って、という......。
棚のバーコードと下げ札
―――720カ所もある棚の荷物をひとつひとつ! それは大変でしたね。
深田: もちろん通常の出荷業務もありましたから、在庫がどこにあるのかを人に聞きながら探すこともしょっちゅうでした。だから今ではスマホで位置が確認できるようになったのは本当に助かりました!(笑)
近藤: そう言っていただけると開発側としては本当にうれしいです(笑)。
ただ最初のうちは数値の入力に課題がありましたよね。もともとスマロジくんは基幹システムからその日の入出荷の予定を取得する仕組みだったんですが、実際は基幹システムに入力されないけれども物が動くというケースもあって、その場合の入荷数や出荷数が入力できなかったと記憶しています。
深田: そうでしたね。ノベルティなどの他社商品がメーカーから直接ロジセンターに送られてくるなど、基幹システムには入力されないケースというのはけっこうあるんです。
そういったこともあり、在庫数を紙に記入しておくことも続きました。やはりすぐにスマロジくん一本に切り替えるのはなかなか難しかった。
近藤: そこは現場からの強いご要望をいただいたので、いち早く改修した部分です。それ以外にも実際の運用に合わせた改修を重ね、2026年1月にリリースしたのが現状の最新版です。
在庫の上げ下ろしにはリフトが必須。深田さんはリフト操作の資格を持っていないため、
上段の在庫確認には特に苦労したとのこと。写真は有資格者による操作の様子
現場を知る強みと、「よりよく伝える」への挑戦
―――では開発について伺います。他社製システムはNICOの実務に合わなかったとのことですが、今回は社内開発ということで、実際の運用に即した柔軟な開発が可能だったのではないでしょうか。
近藤: 当初は現実と乖離していた部分もありましたが、深田さんをはじめロジセンターの方々のご意見をいただきながら徐々に改修してきました。もちろん現場と一緒になって作り上げていくという姿勢は、社外のクライアントであっても変わりませんが、社内ならではのやりやすさというのはありましたね。
それに実は私、開発部署に異動する前は、東海BPOセンターの総務部門にいたんです。ロジセンターの現場を詳しく知っていたわけではありませんが、すぐ近くにいたわけですから、どう作業しているかは話を聞けばイメージができました。そこは大きなアドバンテージになったと思います。
―――それは現場の声を吸い上げる上でとても重要ですね。工場でも開発の仕事をされていたのですか?
近藤: いえ、当時は開発担当というポジションではなかったんです。データ処理やインフラサポートなどを引き受ける「PC周りの何でも屋」の立場で、工場内での困りごとのご相談をいただくことがあって、必要とされる細かな業務に向けた自動化ツールを作成していました。その経験を重ねるうちに、より高度なツール・アプリも依頼されるようになり、周囲の理解もあって、徐々にアプリ作成に注力するようになりました。
もっと開発の仕事に携わりたいと思っているうちに、現在の部署への異動の話をいただいて。自分にできるのかという不安もありましたけども、自分のスキルアップを考えるとまたとないチャンスですから、ありがたくお受けしました。

―――NICOでは学び直しを積極的にサポートしていますので、まさにその体現者ですね。現場を知る方が作り手となるのは、開発側、現場側双方にとって心強かったのではないでしょうか。
近藤: そう思っていただけると嬉しいですね。けれど、そもそもNICOのClaris FileMakerを活用した開発自体が、自分たちの業務を効率化するところからスタートしています。現場に入り込み、ユーザーに寄り添う姿勢は、私個人の経験だけでなく、NICOの開発体制における最大の強みだと思っています 。
ただ、私の工場でのツール作りは、みなさんの要望を口頭で聞いてその場ですぐに手を動かすという進め方をしていたんです。チームでプロジェクトとして進める本格的な開発に携わるのは、このスマロジくんが初めてで。プロジェクト進行に必要な情報をどう言語化して伝えればいいのか、私の不慣れさゆえに時間がかかってしまうこともありました。
深田: それはロジセンター側もそうでしたよ。システム開発におけるコミュニケーションに長けているわけではありませんから。
近藤: ロジセンターの皆さんにも、資料作成など慣れない作業をたくさんお願いしてしまいましたね。
深田: やっぱりまだまだ業務が人に紐づいている部分が多いですし、それを正しく表現し、課題として抽出して開発側に伝えることは簡単ではありませんね。どうしても口頭であれこれと話してしまって、真意が伝わりきらないというもどかしさは、お互いにあったと思います。
近藤: 仕事の進め方自体が大きな学びになりました。NICOの行動指針にも「よりよく伝える」という項目がありますが、その重要性を身をもって実感する仕事でしたね。
NICOの行動指針について、詳しくはこちらの記事をご覧ください
―――お互いに「よりよく伝える」ことへの挑戦だったのですね。
近藤: 課題の管理や、フィードバックのやり取りといった仕事の進め方は、システム開発のみならず、すべての業務で役に立ちます。私自身はもちろんですが、今回の開発に関わったロジセンターの皆さんにも、この経験が次の業務に活きることがあればうれしいですね。

現在はまだ過渡期。100%の信頼で、真の業務改善へ
―――ではスマロジくんの活用が進む現在、どのような変化を感じていらっしゃいますか。
深田: 属人化の解消という点で、非常に大きな一歩を踏み出せたと感じています。また、ピッキング間違いのリスクも大幅に低減できました。スマロジくんによる管理が確立されたのは本当に大きくて、今ではロジセンターになくてはならない存在です。
近藤: 開発者として本当に嬉しいですね。一番悲しいのは、作ったけれど使われないことですから。現場の皆さんが一生懸命にスマロジくんで現場をよくしようと試行錯誤している姿を見ると、心から「作ってよかった」と思います。
―――現状、システムとしてはこれで完成という状態なのでしょうか?
深田: 実をいうと、まだ在庫数の管理に一部紙を併用しています。誰にでも確認できるようにはなったのですが、複数の人間が操作するうちにミスが起こるリスクもあり......。実際の在庫数とシステム上の数が合わなくなる事態に備えています。
それを防ぐためにはどうするのか。運用のルールを固めながら進めている最中です。完全にスマロジくんでの管理に移行し、「作業効率がこれだけ上がった」と明確に数字で示せる状態になることが今の目標です。そこを乗り越えてはじめて、本当の意味での業務改善だと思っています。
近藤: 操作ミスを防ぐ仕組みづくりは、開発側としても対処しているところです。
現場の方々に、システムの仕組みに合わせてもらっている部分がまだまだあるんですよね。もちろん運用を見直していただかなくてはいけない部分もあるんですが、システム側でももっと使い勝手を良くし、足りない機能を補っていかなければなりません。
100%「あってよかった」と言い切れるところまで、今後もロジセンターの皆さんと連携しながらブラッシュアップしていきたいです。
―――深田さんは最近、現場を離れて工場全体の改善を推進する部署へ移られたと伺いました。立場が変わった今、このプロジェクトをどう俯瞰されていますか?
深田: はい。2026年2月にロジの現場からは離れました。今後はより広い視点でスマロジくんの運用に関わっていくことになります。このシステムを一つのモデルケースとして、工場全体の業務をよりよくしていきたいですね。
当社のシステム開発についてのお問い合わせはこちら
お問い合わせ深田青邦
西川コミュニケーションズ株式会社 業務企画部業務課 センター改革推進担当 15年以上にわたり製版業務に携わる。その後グラフィックアーツセンター(現・東海BPOセンター)での業務改善活動をきっかけとして全社改善業務に取り組む。1年間BPOグループにて梱包出荷業務を担当後、現職。
近藤和佳子
西川コミュニケーションズ株式会社 DX事業部 サービス開発グループ 入社後、基幹システム管理やインフラ支援、収支のデータ活用に携わる。東海BPOセンターでは、工場稼働・収支データの分析・活用に加え、アプリ開発による業務改善の仕組み構築を進めてきた。 2024年からは現部署でClaris FileMakerを活用した社内外向けの業務改善アプリの開発に携わっている。
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