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マーケティング 2026.09.28

人の想いとテクノロジーで、インサイトを解き明かす。「声にならない声」を聴くフェムの定性調査

人の想いとテクノロジーで、インサイトを解き明かす。「声にならない声」を聴くフェムの定性調査
「人の想いを原動力に、未来を変えてゆく」
西川コミュニケーションズ(以下、NICO)グループのマーケティングリサーチ会社・フェムマーケティングハウス(以下、フェム)は、このビジョンのもと、定性調査を通じて社会課題の解決への挑戦を始めています。

軸となるのは、消費者本人も自覚していない隠れた本音を引き出し、課題解決へと導く「インサイトソムリエ」の育成です。そこにAIやアイトラッキングによる瞳孔反応計測データの分析といったデジタル技術を組み合わせることで、より本質的な課題解決につながるマーケティングリサーチ(以下、調査)を追求しています。

今回は、調査のコーディネートを担う森実祐子さんと、モニター(被験者)のリクルートを担当する外間香穂さんにインタビュー。ビジョンの背景とそれを実現するための取り組み、そしてその先でフェムが目指す未来の定性調査について語っていただきました。

声にならない声を捉え、社会と企業の架け橋へ

―――「人の想いを原動力に、未来を変えてゆく」というビジョンは、どのような背景や課題意識から生まれたのでしょうか。
森実: 
もともとは新規顧客の開拓を目指し、フェムの強みを再定義しようとブランドエクイティ(ブランドの価値構造)の整理が進んでいました。それが2025年春ごろのことです。そのタイミングでNICOグループの120周年を記念したビジョンブックの制作も進行していて、グループ全体の未来へ向けた共通テーマとして「外部不経済の解消」というキーワードが共有されたんです。

挨拶状、記念品のハンドタオルとともにグループ全社に配布された「NICO VISION BOOK」

ビジョンブックについて詳しくはこちらの記事をご覧ください
創業120周年。感謝と未来への決意を込めた「NICO VISION BOOK」が配布されました!


―――「外部不経済」というと少し難しく聞こえますが、具体的にはどういうことでしょうか?
森実:
 経済活動に伴って直接関係のない第三者が不利益を受けることです。わかりやすい例で言えば、工場の煙や排水が環境汚染を引き起こし、地域住民の生活を害してしまうようなケースですね。

ただ、そういった目に見える不利益だけでなく、目には見えない課題もたくさん存在します。見えないから気づかれないし、生活者自身も言語化できないまま、何となく見過ごされているような課題です。


―――確かに、言葉にならないモヤモヤは世の中にたくさんありますね。
森実:
 まさにそこが、フェムが得意とする定性調査の出番なんです。生活者自身も気づいていない「声にならない声」に耳を傾け、そこに潜む課題を抽出する。そして、それを企業や自治体といったステークホルダーへと届け、解決へとつなげていく。もともとフェムが持つ強みと、外部不経済の解消とを結びつけてビジョンが再構築され、社内に共有されました。


―――「声にならない声」をすくいあげて課題解決につなげていく。そうした取り組みは、現在のマーケティング現場ではまだ少ないのでしょうか?
森実:
 日本は海外と比べて、マーケティングリサーチの活用度が低いといわれています。数値データだけで判断してしまったり、そもそもマーケティングが単なる広告運用の役割にとどまっていたり。

民間企業だけでなく自治体も含めて、より深く生活者や地域住民の声に耳を傾け、仕組みや製品、さらには法制度や施策づくりに活かしていく。そうした取り組みがもっと当たり前になればと考えています。調査会社が社会と企業(組織)の関係を構築する感覚器官となることが、フェムが掲げているゴールなんです。


――なるほど。調査のあり方そのものを変えていきたいということですね。
森実:
 本質的なインサイトに基づいた調査成果が製品やサービスに反映される社会になれば、世の中にはより人の想いに寄り添った素晴らしいものが溢れるはずです。フェムがその架け橋となっていきたいですね。



生活者の声を読み解く「インサイトソムリエ」への挑戦

―――では、ビジョン実現のための取り組みについて教えてください。
森実:
 特に注力しているのは人材育成です。もともとフェムの強みは、調査に適したモニターを自社で集めるリクルートの部分にあります。ビジョン実現のためにはここからさらに踏み込み、企画の設計やレポート作成までを一貫して高いレベルで作り上げられるようにならなければなりません。

そのためには、調査の目的を明確にした上で本当の課題を捉えた企画を提案し、解決へと導く専門家が必要です。専門家を育成する方針として「インサイトソムリエ」という目標が掲げられ、現場でもトレーニングが始まりました。


―――インサイトソムリエとはユニークな表現ですね。どういった意味が込められているのでしょうか?
森実:
 ワインのソムリエは、ブドウの品種や産地、醸造年といったさまざまな背景を踏まえた上でワインの味の違いを見極めますよね。それと同じように、私たちも時代背景や生活者の文脈まで踏み込んで本音を読み解こう、という思いが込められています。


―――トレーニングはどのように行っているのですか。
森実:
 最初に取り掛かったのは、講師を招いて行う座学形式の勉強会です。マーケティングの基礎や定性調査の考え方を学んだうえで、実際にテーマを定め、企画設計から実施までを若手スタッフ自身が担当する定性調査の実技トレーニングも行いました。
さらに、「ジェンダーインクルーシブを学ぶ」をテーマに、株式会社COTENが展開する音声プログラムを視聴し、それぞれが学びをまとめて共有するプログラムも実施しました。こうして、座学でのインプットと実践でのアウトプットを行き来しながら、社会課題への理解を深めつつ、現場で活きるスキルを身につけていくことを目指しています。


―――その実技トレーニングに参加されたのが外間さんですね。どのような調査だったのでしょうか。
外間:
 女性のキャリアプランにおける理想と現実のギャップに関する調査です。女性が抱えるライフイベントが働く意欲にどう影響するのかを解き明かすため、ターゲット設定から調査の対象者を絞り込むスクリーニング、モデレーター役となっての当日のインタビュー進行までを一貫して経験しました。


―――普段はリクルート業務を担当されているそうですが、モデレーターは初経験ですか?
外間:
 はい。本当に難しかったです。調査は2回行い、モデレーターも2回経験しましたが、1回目はもう自分が何を言っているかわからないぐらい緊張してしまって(笑)。

森実: 別の部屋からモニター越しに見ていましたが、緊張が伝わってきましたよ(笑)。

インタビュー調査では質問内容や順番、時間配分をまとめたインタビューフローを事前に作成します。ただ実際のインタビューではモニターさんから意外な答えが返ってきたりして、なかなかフロー通りにはいかないんですよ。相手の話に合わせながら質問を変えて、話の着地点を探っていくのは本当に難しいですよね。

外間: 2回目の調査の前にプロのモデレーターの調査に同席する機会があったので、上手な言い回しや効果的な質問の投げかけ方を間近で学ばせていただいて。他のスタッフも同じようにモデレーター役にチャレンジしていたので、その姿を見てお互いに意見を出し合ったりして2回目に挑みました。学ぶことが多かったですね。


―――その経験は、日々の業務にも活きてきそうですね。
外間:
 そうなんです。フェムではモニターに応募された方と必ず電話でお話しして、調査の条件に合っているかを確認したうえで採用しています。その事前調査の際に「なぜこの人はその回答をしたんだろう?」と、回答の背景にある理由をこれまで以上に深く考えるようになりました。
プロのモデレーターさんは「なぜそれをしたのか」という理由をひたすら掘り下げていくのですが、トレーニングを通してその視点が自分にも身についてきたと感じます。

森実: 条件に当てはまるかどうか一定の基準は設けてあるので、それに沿ってモニターを選別していますが、なぜ調査するのか、その目的を理解するとやはり聞き方は変わってきますよね。

例えば「パッケージが可愛いから買った」という回答でも、キャラクターのようなファンシーな可愛さなのか、ハイブランドを思わせる洗練された可愛さなのかで意味合いは異なります。調査の目的を把握していれば、そうした細かいニュアンスや背景まで事前段階でしっかりと聞き取れるようになります。


―――自社でモニターを採用するリクルート力は従来からのフェムの大きな強みですよね。既存の武器の強化にもなっているのですね。
森実:
 そうなんです。これまでのトレーニングはそもそも「調査の本質とは何か」という根幹を学ぶものなので、すべての業務に直結しています。

現在はさらに一歩進めて、NICOグループのお客様の実ビジネス課題を通じて、若手スタッフが企画・設計から参画する実践型トレーニングを展開しています。ベテランリサーチャーによる伴走と厳格なレビューを組み合わせることで、実務経験の蓄積をそのまま調査品質の向上へと結びつけています。


デジタル技術で「人の観察眼」に科学の裏付けを

―――人材育成に加え、デジタル技術の活用にも力を入れられているそうですね。具体的にはどのような検証が進んでいるのでしょうか。
森実:
 大きく分けて2つの取り組みが進んでいます。ひとつは、グループ会社の株式会社sodaと連携して開発しているインタビュー内容のAI要約システムです。

インタビューの設問フローと発言の文字起こしデータを読み込ませると、インタビューの結果を自動でまとめてくれる仕組みです。汎用型の生成AIでも同じようなことはできるのですが、このシステムは定性調査のレポート用に最適化されているので、スピードが重要な定性調査の現場において、インタビュー終了時に主な学びのポイントが整理・要約された状態まで一気に持っていくことができます。

まだ検証段階ですが、将来的にはフェム内でのレポーティング効率化だけでなく、クライアントが直接データを触って多角的に分析できるサービスとしての提供も視野に入れています。


―――グループの連携が活かされた取り組みですね。ではもう1つの取り組みについてもお聞かせください。
森実:
 こちらも検証段階ですが、アイトラッキングを活用した生体反応分析に取り組んでいます。瞳孔の拡大などを検知することで、集中しているかどうかや、ストレスを感じているかといった生体反応まで数値化できるというものです。


―――アイトラッキングはこれまでも使われていましたよね。これまでの手法とは何が違うのでしょうか?
森実:
 そうですね。フェムには自社内に模擬店舗が常設されているので、モニターさんに実際の買い物の様子を再現していただき、店頭での動きを計測する調査にアイトラッキングを活用してきました。

ただ従来の調査は「どこを見ているか」という視線データだけだったんです。目の前の商品を見てはいても、実は意識が別のところに向いていることってよくありますよね。これまでの手法では、そうした意識のありかまでは捉えきれませんでした。

ドラッグストアを模した模擬店舗の写真。並んだ什器に洗剤などが並んでおり、アイトラッキング用の眼鏡を付けた女性が商品を手に取ろうと手を伸ばしているフェム内にある常設の模擬店舗。店舗の許可や他のお客様へ配慮の必要がなく、自由度の高い調査が可能です


―――なるほど。見た目だけではわからない心理状態まで可視化され、より深い分析ができるようになるわけですね。
森実:
 言っていることと本当の気持ちが一致しない場面ってありますよね。インタビューでも、購入の決め手は価格の安さだけれど少し格好をつけたくて別の理由を答えてしまう、なんてことは珍しくないと思います。聞いていると何となくわかるんですが、それを客観的に証明するのは難しくて。
しかし生体反応が数値でわかることで、そこに科学的な裏付けが得られます。人の観察眼とデータを掛け合わせることで、より深い分析ができるようになることを期待しているんです。


変わらぬ原点を胸に、定性調査が「当たり前」になる未来へ

―――こうした取り組みを組み合わせて、今後はどのような姿勢でクライアントや社会に向き合っていきたいですか。
森実:
 フェムが創業時から大切にしてきたのは「正直かつ誠実でありたい」「必要とされる存在でありたい」「社会貢献を使命として認識したい」という3つの企業理念です。時代や技術が変わってもこの原点からブレることなく、社会やクライアントに真摯に向き合い続けたいと考えています。

そしてもうひとつ、大事にしたいのはクライアントのニーズを的確に汲み取る力と、それを素早く形にするスピード感です。

これまでもクライアントからの「こういう調査がしたい」という声に対して、すぐに模擬店舗を開設したり、アイトラッキング機器を導入したりと柔軟に対応してきました。相手の困りごとを捉える観察力と提案力を磨き続け、揺るぎない信頼関係を築いていきたいです。


―――外間さんは日々の業務でどのようなことを意識していきたいですか?
外間:
 トレーニングを通じて学んだ視点は、日々のリクルート業務でよりよい対象者さんを選ぶ力に間違いなくつながっています。
「なぜその行動をとったのか」という背景や感情まで捉える聞き方を極めて、もっと深掘りできるようになりたい。そして将来的にはさらに経験を重ねて、クライアントに「こうしたらいいのでは」と提案できるようになりたいですね。


―――現場での意識の高まりとテクノロジーの進化、その両方が揃っていく中で、フェムが目指す今後の展望をお聞かせください。
森実:
 冒頭にもお話ししたとおり、フェムがゴールとして掲げているのは、定性調査が社会のあらゆる商品開発や意思決定において当たり前のように活用される未来です。

社会をよりよくしていくためのアイデアは、人々の内面や感情の中にも確かに存在しています。民間企業はもちろん地方自治体などの支援まで視野を広げ、本質的なインサイトで企業や社会をつなぐ頼れる架け橋となることを目指していきます。

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お問い合わせ

森実祐子

株式会社フェムマーケティングハウス
執行役員・シニアリサーチコーディネーター

2007年入社後、リサーチコーディネーターとして16年勤務。これまでに食品、日用消費財、衣類、服飾雑貨、デリバリーサービス、アプリ、旅行、電化製品などさまざまなカテゴリーを経験。

外間香穂

株式会社フェムマーケティングハウス
リクルーター

2014年西川コミュニケーションズ入社後、広告のオペレーター、デザイナー、ディレクターを経験。2025年からはフェムマーケティングハウスへ出向し、リクルーターとして勤める。